TVクイズ大研究

TVのクイズ番組を裸にした本!
数々の番組で優勝を続ける筆者が、自らの経験と頭脳からあみ出した、本当は公開したくない、
TVクイズ攻略のまる秘カリキュラム一挙公開!

©北川宣浩 1981
クイズの本

第4章:クイズの勉強法/ジャンル別クイズの対抗法


文学は作者と作品名を


 クイズで「文学」というと、内外を問わず古典から現代小説、あるいはエッセー、評論などの文学一般がまずあげられる。さらに、詩、短歌、俳句、文法、語源、文学史、ことわざ、慣用句、神話、伝説、戯曲、美術、マンガ、外国語などなどである。

 もっともクイズらしいのは、作品名と作家の問題。
●「ロビンソン・クルーソー」の作者はデフォー、では「ガリバー旅行記」は 答、スウィフト
●新田次郎の未完の遺作は 答、孤愁(サウダーデ)

 このテの問題は無限に作れるが、マークしておくのは"古典""名作""最近の話題作"である。

 一夜漬け式に覚えるなら、文庫本の目録を書店からもらってくればよい。岩波文庫をはじめとして各文庫は、それぞれの目録(カタログ)を出している。これにはその文庫に収録されている作品と作家名、さらに簡単なあらすじが載っているので便利だ。大きさは文庫本と同じだからカサ張らない。もう少し詳しく作品の内容を知りたい人の為に「名著解説」といった具合の本も出ているので、捜してみるといい。このようなアンチョコ風の本は学習参考書の棚で見つけることもある。中学生用の小型の参考書はクイズの役に立つし、ぼくなんか忘れていた一般常識を呼び戻すさそい水になっている。ちなみに、クイズ問題のレベルは中学生程度+αを基準にしているとか。"最近作"は書店の新刊コーナーをうろつくのもよし、新聞広告を見るのもよし。

 ところで、実になさけないのだが、ぼくは「罪と罰」を読んでない。そのほか「赤と黒」「風と共に去りぬ」「戦争と平和」「若きウェルテルの悩み」……など、古典的名作のほとんどを読んでないのだ。(日本のものならやや読んではいるが)でも作者はもちろん、主人公の名やあらすじも知っている。かなりのスピードでボタンを押して答えられるであろう。しかしそれが何になるのだ。小説を読んで自分なりに考えた人と、人より先にボタンを押して「ドストエフスキー」と言う人と、どちらが偉いか言うまでもない。

 クイズ人間は、ともすれば表面的な事象ばかりを追って、本質を見逃してしまいがちだ。さらに、「たくさん知っている」ことを内心自慢に思ってくる。「知っている」のはクイズゲームのテクニックのひとつで、人間としての豊かさの要素には、イマイチ成り得ないものだ。「知っている」のはいいことには違いないが、知識を利用して、本質を見極め、自分なりの意見をもった時に、はじめて豊かになったというべきであろう。何回かクイズに優勝すると、ぼくなどつい天狗になりがちである。その時は「オマエは罪と罰を読んでないのだぞ」と自責して、のぼせるのをおさえている。

 話が大きく脱線したのでもとに戻す。作品の内容、文中のことがらを問う場合も多い。

 ●谷崎潤一郎の小説「痴人の愛」の女主人公の名は。答、ナオミ
 ●漱石の「坊ちゃん」で、松山での教師を辞めたあと、坊ちゃんはどんな職業に就いたか。答、街鉄(路面電車)の技手
 ●ヘミングウエーの「老人と海」で、老人はどんな魚と闘ったか。答、カジキマグロ

 このような内容を問うものになると、読んだことのある人とない人では明らかに差がつく。でも読まずに答えたい人は、「名著解説」のたぐいをひもといてください。

 また、文学賞受賞関係の問題も多い。特に芥川賞・直木賞は必ずといってよいほど出る。多くは作品と作家名を当てさせるものだが、たとえば

 ●「離婚」で直木賞を受賞した色川武大が、麻雀小説を書く時のペンネームは。答、阿佐田哲也
 ●「僕って何?」で芥川賞を受賞した三田誠広のお姉さんは女優です。誰でしょう。答、三田和代
 ●ポルノ御三家といわれる川上宗薫・宇野鴻一郎・富島健夫のうち、芥川賞作家は。答、宇野鴻一郎

 といったエピソード的なものにも触れる時もある。新聞で受賞者のプロフィルをよく読んでおこう。受賞作を読めば、それに越したことはない。芥川・直木賞以外にも、菊池寛賞、泉鏡花賞、吉川英治賞、大宅壮一ノンフィクション賞、H氏賞、女流文学賞など、多数の賞があるので、そのつど新聞発表に注意したい。

クイズによくでる芥川賞・直木賞の作家と作品 


芥川賞

 石川達三「蒼氓」(35年の第1回)、尾崎一雄「暢気眼鏡」、火野葦平「糞尿譚」、中里恒子「乗合馬車」(最初の女性受賞者)、井上靖「闘牛」、安部公房「壁−−S・カルマ氏の犯罪」、五味康祐「喪神」、松本清張「或る『小倉日記』伝」、安岡章太郎「悪い仲間・陰気な愉しみ」、吉行淳之介「驟雨」、遠藤周作「白い人」、石原慎太郎「太陽の季節」、開高健「裸の王様」、大江健三郎「飼育」、北杜夫「夜と霧の隅で」、三浦哲郎「忍ぶ川」、宇野鴻一郎「鯨神」、田辺聖子「感傷旅行」、庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」、古山高麗雄「プレオー8の夜明け」、李恢成「砧をうつ女」、森敦「月山」、村上龍「限りなく透明に近いブルー」、池田満寿夫「エーゲ海に捧ぐ」、三田誠広「僕って何?」、高橋三千綱「九月の空」

直木賞

 川口松太郎「鶴八鶴次郎」(35年上半期の第1回)、海音寺潮五郎「天正女合戦」、井伏鱒二「ジョン万次郎漂流記」、村上元三「上総風土記」、今日出海「天皇の帽子」、檀一雄「長恨歌」、源氏鶏太「英語屋さん」、柴田錬三郎「イエスの裔」、藤原審爾「罪な女」(女優藤真利子の父)、戸川幸夫「高安犬物語」、新田次郎「強力伝」、今東光「お吟さま」、山崎豊子「花のれん」、城山三郎「総会屋錦城」、平岩弓枝「鏨師」、司馬遼太郎「梟の城」、戸板康二「団十郎切腹事件」、池波正太郎「錯乱」、寺内大吉「はぐれ念仏」、黒岩重吾「背徳のメス」、水上勉「雁の寺」、山口瞳「江分利満氏の優雅な生活」、安藤鶴夫「巷談本牧亭」、永井路子「炎環」、立原正秋「白い罌栗」、五木寛之「蒼ざめた馬を見よ」、生島冶郎「追いつめる」、野坂昭如「アメリカひじき」「火垂の墓」、三好徹「聖少女」、陳舜臣「青玉獅子香炉」、早乙女責「僑人の檻」、佐藤愛子「戦いすんで日が暮れて」、結城昌治「軍旗はためく下に」、渡辺淳一「光と影」、井上ひさし「手鎖心中」、藤木義一「鬼の詩」、半村良「雨やどり」、佐木隆三「復讐するは我にあり」、三好京三「子育てごっこ」、色川武大「離婚」

 さらに詳しく知りたいのなら、百科事典や年鑑にリストが載っている。

 このところ語源がブームとかで、語源を問う問題もふえてきた。語源について書かれている本がたくさんあるから、それらを読めばよい。電車の中で読めるような肩のこらない内容だ。

 慣用句、ことわざ、故事成語についても、それぞれ事典・辞典が出ているので、パラパラめくる。こんな本は、頭から覚えようとして読んでもあまり効果はないはずだ。なにげなく読んでいくうちに、自然に身につく。事典・辞典類は、国語辞典と英和辞典、それに百科事典くらいしかないと思われている方が多いかもしれないが、中にはヘンな辞典もたくさん出ている。たとえばワンワンとかガタガタとかいう擬声語、擬態語の辞書もある。こんなのは一日読んでいても飽きない。書店をふらつくと、思わぬ珍本を発見する時があるので、散歩がてらにのぞいてみよう。

 追伸
「世界史こぼれ話2」(角川文庫)に二葉亭四迷のこんなエピソードが載っていた。思わずニヤリ。彼が『罪と罰』がおもしろくて徹夜で読みました」と、あるロシア人に話すと、「よくあんなものがおもしろいね。私たちはみな3、4ページでじつは閉口しているんだよ。だが評判が高いので外聞を恥じて、ガマンしてやっと終わりまで読むんだよ」だって。

 

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