TVのクイズ番組を裸にした本!
数々の番組で優勝を続ける筆者が、自らの経験と頭脳からあみ出した、本当は公開したくない、
TVクイズ攻略のまる秘カリキュラム一挙公開!
「一九三五年、アメリカで"風と共に去りぬ=Gone with the Wind"の映画化が発表された時、淀川長治氏はその題を何と訳したでしょう。
1.風と一緒にさよなら
2.風と共に飛び散った
3.風に乗って去った恋」
こんな風に選択肢のついているクイズの、効率的な解き方はあるのだろうか。初めから答えを知っているなら例題を聞く必要もないが、ほとんどが、ヤマカンで答えざるを得ない、例題の中から選ばざるを得ないように作ってある。まったくわからない時、どうやって三つの中から答えを捜し出すか。ちょっと古くなってしまったが、第2回ウルトラクイズ、サンフランシスコでのインスピレーションクイズで、ぼくが体験した問題を軸に考えてみよう。(冒頭の答えは2です)
「この3人の中で、全米女子重量挙げチャンピオンは誰でしょう」
若い女性が3人並んでいる。これが最初の問題だった。海外トピックスでとりあげられる話題だが、女子重量挙げがあるのも初耳であった。カーリーヘアが二人で、金髪のショートカットが一人。誰もとびきりカワイイ娘ではない。まず2番の金髪ちゃんを除外。見るからに弱々しい感じがしたからだ。
三択のように、選択肢のある問題では、明らかに違うと思うものから消去していく。学校のテストでも、消去法を使えばよい。残るモジャモジャ頭二人のうち、1番は背が高く、ぼくなどつき飛ばされそう。3番は小柄だが、いかつい顔をしていた。よし、背の高いのはぼくらを惑わすためで、いかついチビちゃんが本命と3番の札を挙げると正解!
あまりにストレートな答えではおもしろみがないから、意外性のあるものの方が正解の場合が多い。つまりそのように問題を作ってある。
「日本人にもこのぐらい(小柄)な方はいますね」
と司会の福留アナ。
もうひとつ、
「全米カエル三段とびに優勝した、カエルの調教師は」
今度は3人の男性が並んだ。まず1番を除外。目がキョトキョトしていたからだ。ニセ者役はどことなく後ろめたさ、不安があるのか態度に現れる。2番の金髪と3番のヒゲ、どっちにしようか迷ったが、さっきが3番だったので、今度は2番にしてみた。ところがこれまた3番。考えてみりゃそうだ、正解者発表は、
「1番の方、やってみてください。あれー、だめですか。2番の方、これもだめ。残る3番の方!ほんものさんです!!」と、くるのが自然じゃないか。
「1番の方はちょっとお休みして、2番の方から…」
では、すぐ1番が正解とわかっちゃう。3人並べば3番さん。演出効果を考慮した解答法である。現にそう考えて、正解した人がいた。
とにかくクイズ番組は出場者のためでなく。視聴者のために作っているのだから、出場するなら、局側のそういった演出上の意図も考えにいれておくべきだ。
数字を当てさせるクイズも三択式が多い。端数処理などのため、例題があったほうが無難だからだ。「世界の人口は約40億人です。この人たち一人を数えるのに1秒かかるとして、全員を休むことなく数え続けていくと、およそ何年かかるでしょう。5年、25年、125年」
計算すればもちろんできるだろうが、クイズの考える時間は5秒程度。暗算が得意な人ならともかく、ふつうはカンで答えるしかない。答えは125年で、実際はもう少しかかる。
「エーッそんなに日数がかかるなら、数えるほうも数えられるほうも死んじゃうじゃない」
と驚くだろう。そこが数字当てクイズのミソで、「そんなに多いのか」「たったそれっぽっちなの」と意外感を与えるのがねらい目。最も極端な値が答えになることが非常に多い。あたり前の数値ならおもしろみがなく、クイズにならない。
さてウルトラクイズでは、
「全米女子重量挙げチャンピオンになった特に持ち挙げた重さは」
が出た。例題3つを聞くまでもなく、前述の方法から一番重いのと考えた。「そんなに重いものを持ち挙げるのか!」と印象づけるように問題を作るからだ。例題は、
「1、121Kg 2、138Kg 3、152・2Kg」
しかしここでハタと考えた。彼女は本物の証明に100Kgのバーベルをヨイショと持ち挙げてみせたのだが、その時の様子から、150Kgはちょっと重すぎるように思えたので、次に重い2番にしてみた。すると正解。あの100Kg挙げの実演がなければ3番にして間違えていた。152・2Kgは東京五輪での三宅選手の記録とか。すべての問題で極端な値が答えと決まってるワケじゃないから、柔軟な思考が大事だ。ぼくは138Kgを持ってみたが、地面に張りついてるみたいで、非常に重かった。
カエル三段とびの時も、
「試合前に、コンディションをよくするために、カエルを水につけるが、その水の温度は。
1、15度 2、25度 3、35度」
この問題は、10人の挑戦者のうち、ぼくしか出来なかった。ぼくが何番を挙げたか、もうおわかりだろう。3番である。後日、このビデオを見たある女の子は、「35度なんてお湯じゃない」といぶかったが、誰もそう考えるからこそ、答えは35度なのだ。それより、この時はこう考えた。
1)人間が物事を計る時は、意識しないまでもある基準をもって考える。例えば友人の部屋を「広い部屋」と思うなら、自分の部屋を無意識のうちに基準にしている。
2)では、物を水につける行為で、もっとも一般的な−−基準になるべき行為は何であろうか。それは風呂だ。
3)カエルに適した水温は何回も実験して求めたのかもしれない。しかし、カエル調教師にとって、風呂の水温が無意識のうちにも基準になっていたのではないか。なぜなら、彼にとって、物をつける一番標準的な温度だからだ。
4)日本人は42度の風呂が一番いい湯だが、アメリカ人はそれよりぬるい、体温程度の湯を好むと聞いている。
5)ゆえに、この答えは3番の35度である。では3番の札を挙げよう。
ところが、79年3月に東京12チャンネルがクイズの優勝者ばかりを100人集めた「ウルトラクイズ大賞」という番組を作った。優勝者ばかり出るなんてオモシロイ、と喜んで出場したら、12チャンネルのスーパーカークイズとかで優勝した子供や、100人の人数を揃えるためのエキストラまでいりまじり、何だかあやしい雲ゆき。
ここでも三択クイズがたくさん出たが、
「サンシャイン60の窓の数は」
「消防自動車のハシゴは何mまで延びるか」
「ジャンボジェット機の重さは何トン」
といった、愚にも付かない問題ばかり出る。それでも出場してしまったからにはと、極端なものを選ぶ鉄則に従って、1番や3番のフダをあげたけれど、ほとんどの正解は2番で、早々と負けてしまった。
問題に何のおもしろさもなく、クイズを知らない人が作ったような番組だった。
最後にもっとも一般的な、選択肢が「言葉」である三択クイズの対処の仕方を説明しよう。今度は79年11月の第3回ウルトラクイズでの問題を例にした。
本土上陸最初の都市ロサンゼルスでのインスピレーションクイズでは、まずジョン・ウェイン、マリリン・モンロー、エルビス・プレスリーのそれぞれそっくりさんが登場。そのホンモノについての問題だ。ウェインは、
「チャイニーズシアター(映画館)にはいろいろな俳優の手型足型が残されているが、私は足型のほかに何を残しているか。1、ゲンコツ 2、愛用のウインチェスター銃 3、愛馬のひづめ」
俳優女優の手型足型が残されている舗道がハリウッドにあるのはご存じだと思う。日本でもそれをマネたのが浅草にある。型をとるのは生乾きのモルタルか石こうに、手なり靴なりを押しつけるのであろう。それを考えると銃なんかをモルタルに押し当てたら、砂ツブなどがついて、銃が作動しなくなる。馬を連れてくるのはタイヘンだ。いうことを聞かないかもしれない。何より2つともJ・ウェイン自身でない。一方モルタルにゲンコツを押し当てるのは実に彼らしい。と思って1にしたら正解。手は洗えばいいのだから。……もっともぼくは第3回には参加しなかったので、TVを見ての解答なのだけれど。実際の挑戦者の正解率は、10人中1人と少ない。
モンローは、スカートが風に舞う例のポーズをとり、
「このシーンでおなじみの映画は、1、お熱いのがお好き 2、7年目の浮気 3、アパートの鍵貸します のどれ」
正解でない2つの例題はクイズ作家が考えたものだ。ウェインの問題のように、矛盾点のあるものや、違和感のあるものを除けばよい。これらはどれも高名な映画だが、少なくともこれらの映画の内容を知らなければできない。内容を知っているくらいなら当然できてよいほどの有名なシーンだから、知らなければカンにたよるしかない。「ナーンダ、カンにたよるのかあ」って、競馬や競輪は、最後がカンがものをいうとか。日ごろから、カンを養っておきたい。一般に女性の方がカンがいいけど、この答えは2。10人中5人正解。
プレスリーは、
「ハートブレイクホテルで爆発的人気を得た頃、私は何と呼ばれていたか。1、もみあげエルビス 2、汗っかきエルビス 3、骨盤エルビス」
"もみあげ"は彼のシンボルみたいなものだし"汗っかき"も、女性のさし出すハンカチで汗をぬぐっているステージ中継でおなじみだ"おなじみ"な事がらは、クイズ作家がニセの答えを何にしようかと考える時すぐ浮かぶ。だが"骨盤"はちょっと異色なので3にしたら正解であった。10人中6人正解。骨盤は英語でPelvisで、腰を悩ましく振る彼のアクションから付いたとか。Pelvis Elvisで語呂が合っている。クイズ作家の心理−−ニセの答えを作る時どう考えるか−−を推理すれば、答えが輝いてくるのだ。クイズのネタは、おもしろい話題、珍しい話題からが多い。その話題をクイズの形式にして視聴者に提供すると考えてもいい。この場合は最初に、
「エルビスは、かつて骨盤エルビスと呼ばれていた」という"話題"があった。これを問題にしようとクイズ作家が考える。三択にするとなれば2つのニセの答えを作らないといけない。どれも○○エルビスでいこう。正解が骨盤だから、他の2つも彼の身体に関係のあることにしよう。ウン、もみあげエルビスと汗っかきエルビスだ。作業行程はこんな具合のハズだ。
視聴者を「ヘエー、なるほど」とさせるには、「数字あて」でも書いたとおり、正解は意外なもののほうがよい。それに「事実は小説より奇なり」というように、クイズ作家が考えるニセの答えは、わりとまともな線でまとまってしまうのではないか。事実は人間が考えることより、もっと奇抜なことのほうが多いのだ。
次はイカツイ顔をした男が3人、ボロピアノを傍らに登場。
「ギネスブックに載っている3人組だが、ピアノをどうするか。
1、どんなこわれたピアノでも即座に直す 2、カラテでこわす 3、かついで走る」
1の例題は無理がある。"どんなこわれた""即座に"などという抽象的な事がらが条件ではギネスブックには載らない。"全米ピアノ調律チャンピオングループ"ならまだギネスブックに載りそうだけど、いずれにせよデリケートなピアノの調律や修理をするようなナイーブなお顔つきには見えなかった(失礼)。2と3は映像的にもおもしろいが、かついで走るのなら、それこそブッチャーみたいな大男のほうが速そう。だいたい3人でかついで走るなんて、足がもつれてしまう。よって顔つきもカンフーぽかったから2にすると正解だった。10人中4人正解。
三択クイズは、このように一つだけ異質のものを選んだり、演出効果を考えたり、出題者の心理を読んだりすると、かなりの正解率が得られる。ハナからカンで、と決めつけないで、じっくり考えてみよう。ただしあまり考えすぎるのはダメ。かえって深みにはまる。どっちか悩むようだったら,初にひらめいたほうにする。学校のテストでもそうだが、あとから訂正すると、たいてい最初のがあっているもの。また、「さっき1だったから今度は2」「×が続いたから次は○」のような、番号で答えを決めるのはやめたほうがいい。あくまで選択肢の内容で考えよう。○か×かの順番なんてサイコロをころがして決められるから。