TVクイズまる金必勝マニュアル

名人が教える150のノウハウ

©北川宣浩 1985
花

クイズ金魂巻


 現代人気職業の金持まる金と、ビンボー人まるビを面白く解説した本「金魂巻(渡辺和博著・主婦の友社刊)」が若者に大ウケし、84年のベストセラーになりました。そこでクイズ界にパロッてみました。
 まず一般傾向から述べましょう。

 まるビがクイズに出る目的は、とにかく実利を求めてです。ローンの足しに、エアコンの購入にと出場前から賞金の使い道を決めています。一方まる金はまったくのホビーとして出ます。港区での夜遊びも、次々と買い換えていったクルマにも飽きた今、新しい刺激としてテレビにでも出てみようかと、軽い気持ちで出ているのです。
 まるビのクイズ展開には生活感がありありと現れます。点数を賭けるルールであれば、負けても必ず何点か残るように賭けます。それでいてペアの海外旅行を獲得して、司会者から「誰と行きますか」と尋ねられたら、もったいぶって「まだ決めてません」と答えます。これは一緒に行かせてもらおうとする友人知人が、いろいろと取り入ることを期待しての発言です。
 その点まる金は、優勝したら銀座の寿し幸のような高い店で、友人知人を大勢呼んで自ら祝宴を上げ、さらに人望を高めるのです。
 まる金はクイズで優勝する前にも世界各国を巡っていますが、まるビはクイズでしか行ったことがないので、行き先はハワイかアメリカ西海岸と決まっています。だからまるビのおみやげは、マカデミアナッツチョコとこれまた相場が決まっており、しかもハーフパックです。

 それでは、現状に当てはめてシュミレートしてみます。
 ここにまる金の学生とまるビの学生がいるとします。二人はそれぞれの理由からクイズに応募しました。まるビはクイズ・ミスターロンリーに、広告付きのハガキを20枚出し、ようやく予選に呼ばれました。まる金はパネルクイズアタック25に、寄付金付き年賀ハガキの余りを1枚出し、予選に呼ばれました。まるビは森進一とアントニオ猪木のものまねをしてスタッフに受け、軽く予選に通過したのですが、なにしろクイズの予選なんて初めてでしたので、天にも登る気持ちでした。まる金はこれといった芸はないのですが、大学のマーケティング研究会で、サントリーの日本料理店におけるワインの販促を研究していると淡々と話したら、すんなり予選に通ってしまいました。
 まる金はクイズの勉強のために、朝日新聞と読売新聞とサンケイスポーツを講読しました。まるビは普段は新聞を取ってないのですが、クイズのために東京新聞を取って勉強しました。さらに古本屋で「TVクイズ大研究」という本を50円で売っていたのを見つけ、小踊りして買って帰りました。まる金はあんまりクイズばかりやっていると彼女が不機嫌になりそうなので、彼女の前ではクイズの話をいっさいせず、USA for アフリカのLPで、どのパートをどの歌手が歌っているかなど、そんな話ばかりしていました。一方まるビは、予選に通った日からは毎日クイズの話題で持たそうとし、
「シシカバブーというトルコ料理は何の肉を使うか知ってる? ライオンとカバとブタの肉じゃないよ。羊の肉を使うんだ」
 などと、彼なりのジョークを交えながらも、勉強した成果をさも偉そうに彼女にしゃべっては、自分は頭がいいんだと印象付けるようにしていました。
 録画は大阪でありました。まる金はアルマーニの服を軽くはおって出掛けました。いつものようにJALカードで航空券を買い、伊丹からはタクシーで局に入りました。まるビは会社訪問用に買った紺の背広を着て東京駅から国鉄夜行バスに乗り、大阪の駅から無料の送迎バスで局に入りました。まる金はうるさい車販を避けて平然と飛行機にし、交通費は新幹線代しか精算しませんでしたが、まるビは航空運賃が出ることを知っていたのに、格安の夜行バスにしたのです。そして幾ら儲かったかを指を使って計算し、ほくそえみました。

 まる金はパリ旅行を獲得しました。パネルの枚数は11枚で、ちょっと見にくかったのですが、チラッと見えたエーゲ海と冩樂の浮世絵から見事に池田満寿夫を当てました。まるビもハワイ旅行を獲得しました。10万円コールがあったのにもかかわらず6問目でやめたのは、5問目で獲得したブライダル・コスチュームがなんとしても欲しかったからでした。まる金は自分の勇姿を録るために、フジフィルムのビデオテープHG451を買って帰りました。まるビは自分の蛮声を録るために、ダイエーの3巻パックのカセットを買って帰り、餃子の王将のバイトを辞めました。

続く

 

 

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