アメリカ横断ウルトラクイズ
クイズ王の本

歴代クイズ王が語るウルトラクイズ必勝法
「知力・体力・時の運」次のクイズ王はあなた!かも、しれない?

クイズ王の会/篇
©北川宣浩・森田敬和 1987
ハワイ

情熱は太平洋を越えて………第2回/北川宣浩(2)

工事現場の片隅で

 僕は建設会社に就職しました。見習いの現場監督として建築現場に配属されました。大学の専攻が建築だったので、当然の職業とはいえ、とにかく僕には向いていませんでした。ようやく人々が起きるころには家を出て、作業員相手に身体を動かして仕事をし、あたりが真暗になったころ仕事が終わって、現場の片隅でシャベルを洗っていると、辞めたい気持ちはいやでも高まってきていました。

建築工事現場

 78年6月のある朝6時過ぎ、出勤前になにげなくつけたテレビでやっていた番宣スポット。あの仕事だったからあんなに早朝のテレビを見れたのだけど、なんとウルトラクイズの募集をしているではありませんか。さっそく宛先をビデオに録画し、応募しました。

 78年9月2日土曜日、これが後楽園予選の日でした。当然会社はありましたが風邪をひいたとか言って休み、妹の洋子が見つけてきた胸にニューヨークの地下鉄路線図が載っているTシャツを着て、一緒に後楽園へ行きました。

後楽園球場予選

 第1問「ニューヨークの自由の女神がたいまつを持っているのは左手である(×)」と、今から見れば信じられないような簡単問題が出て、夢にまでみた僕のウルトラクイズは始まったのです。そして第7問「トランプのハートは心臓を表している(×)」で間違えてしまいました。しかし敗者復活戦となり見事クリア。そう、「あの」ウルトラクイズに出れることになってしまったのです。

決断の時

 1年前、僕の目の前にフッと現れては消えていった、ゆきずりの恋人ウルトラクイズ。しかし今、恋い焦がれていたウルトラクイズはとりあえず僕の手の中にあります。少なくとも成田空港までは行けるのです。

 でも僕は悩みました。もらった日程表を見ると、9月9日夜成田に集まり10日にサイパンへ。以下仮に優勝して帰国するとなると10月1日着と、3週間も日本をあけることになります。親でも死なない限りそんなに休める会社ではなく、仮に死んでも休みは1週間くらいしかもらえないでしょう。僕はニューヨークまで行くことを前提に、参加したかったのです。

 この仕事に向いてなく、前から辞めたいと思っていましたので、後楽園通過は一つのきっかけでした。夜、現場の仕事が一通り終わって飯場で書類整理をしている時、思い切って現場所長に話をしました。「ちょっと個人的なお話があるのですが」と。

「じゃ、あっちへ行こうか」所長は話の内容を察したらしく、他の社員から目の届かない部屋へ僕を連れ、裸電球の下、2人で椅子に腰掛けました。「どうにも向いてませんから、会社を辞めさせていただきたいのです」と切り出しました。

 所長は、いつも苦虫をかみつぶしているような、こわい顔の人でした。僕はひどく怒られるかと覚悟していました。それでも一度決めたのだから、なにがあっても辞めると決心していました。しかし、所長は意外にもやさしい顔で、
「一度きりの人生なんだ。嫌いなことをやって一生を過ごすより好きなことをしなさい」
と、あっさりと認めてくれたのです。

 9月9日土曜日、所長と本社へ行って辞表を提出。話はすべてつけられていたようで、すんなり受理されました。飯場へ戻り、身の廻りの物を整理して、僕は工事現場を去りました。同時に東証1部上場企業社員の身分もなくなりました。まったくの、タダの、北川宣浩という個人になって家に帰ったのです。あるのは、ウルトラクイズだけでした。

順調なスタート

 その日は日本テレビに集合する日でもありました。飯場から持ち帰った荷物を家に置いて、今度は用意してあった海外旅行のスーツケースを手にして、一緒に後楽園を通っていた洋子と日本テレビへ行きました。

 バスで成田のホテルへ。眠れない夜を過ごし、9月10日朝5時に起床。そしてジャンケン。去年テレビで見たあのウルトラクイズは、僕の前でどんどん始まっています。しかもエントリーナンバー1の洋子が、最初のジャンケン敗者になってしまったので、なにがなんでも勝ってやろうと、闘志が沸いてきました。
僕の番が来ました。

「勝つ、勝つ、勝つ」

そうわめきながら、壇上にあがりました。ここで負けては、明日からどうしたらいいのかわかりません。3点先取のジャンケンに最初負けました。しかし、大声で「ジャン・ケン・ポン」とわめいたのが効いたのか、見事勝つことができました。この時は本当にうれしかった。福留さんに抱きついて喜びました。クイズは自信があったものの、ジャンケンだけはコントロールのしようがありませんでしたから。

 洋子にみやげを頼まれてサイパン行きの機内へ。500問のペーパークイズも時間内におさめ、トップで通過。僕のウルトラクイズは、順調にスタートしたのです。

公共の宿

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