アメリカ横断ウルトラクイズ
クイズ王の本

歴代クイズ王が語るウルトラクイズ必勝法
「知力・体力・時の運」次のクイズ王はあなた!かも、しれない?

クイズ王の会/篇
©北川宣浩・森田敬和 1987
ハワイ

情熱は太平洋を越えて………第2回/北川宣浩(4)

優勝の瞬間は家族へ同時中継

 9月26日夜、ニューヨークに到着しました。世界の中心、自由の女神のある都市、夢がかなうところ。そんな一般的な表現よりも、僕にとっては松尾さんが踊った街、ニューヨーク。

 翌27日、午前中はヘリコプターシーンの撮影をしました。午後、パンナムビル内のレストランで食事。そして屋上へ。これが1年前テレビで見た栄光のパンナムビル屋上か。薄曇の中、周囲を眺める余裕もなく、クイズボックスに着席。ボタンに掛ける指がブルブル震えました。

 この時の賞品は家族とのニューヨーク旅行。勝ったほうの家族2名を即座にニューヨークへ呼ぶという企画で、僕の母と妹の洋子、そして間下さんのご両親が成田で待機しており、国際電話回線を通じてクイズの模様は同時中継されています。

 決勝戦の相手間下さんは、きょうだい3人で参加していたクイズ一家。僕も妹と参加したクイズファミリー。まさしく宿命の対決と言えるでしょう。いざ本番が始まると、ボタンを押す勇気が出ず、多くの問題をパスしました。しかし最後には経験がモノを言ったのか、勝利を手にしました。去年テレビを見て、なんてすごい番組だろう、このクイズに勝つ人はどんなにすごい人だろうかと思っていたその人に、今自分がなったのです。

母と妹でニューヨークめぐり

 1日おいた9月29日、祝賀パーティの撮影になりました。そこで母と、成田でいの一番に落ちた洋子に引き合わされました。2人とも生まれてはじめての飛行機、そして海外旅行。本当は偉くなって自分の力で連れてきたかったのですが。いや、それが早くも実現したというべきでしょうか。

 アメリカ人女性から飲めないお酒を飲まされたとき、母が出てきて「もう飲ませないでください」と言ったのにはまいりました。母は前年に松尾さんがフラフラになった話を聞かされていたのです。母のやさしい気持ちは嬉しかったのですが、どうにもカッコ悪く、プロデューサーにこのシーンだけは放送しないでと、頼んだ次第。

エセックスハウス前の母と妹

 パーティ会場であるブロードウェイのレストラン「サルディス」からロールスロイスに乗って、セントラルパークに面した高級ホテル「エセックスハウス」に。その中でもスペシャルスィートである1201号室「ウェリントン卿の間」に泊まらせていただきました。なにしろバスルームだけで3つもある豪華な部屋。あっちの部屋こっちの部屋と歩きまわりました。そしてセントラルパークやメトロポリタン美術館をめぐり、ほんの2日ばかりでしたが家族そろってのニューヨーク旅行をさせていただきました。

旅を終えて

 恋い焦がれていたウルトラクイズに勝ったのは、信じられない出来事でした。愛すれば気持ちはきっと通じる。神様は本当にいて、情熱を捧げ、一生懸命やった人には光を投げてくれる−−。そんな気がしました。開けて79年4月、広告会社に就職し、今度は好きな広告の仕事を始めました。この仕事は向いているようで今も続けています。

 そしてウルトラクイズに優勝したのが効いたのでしょう、他のクイズ番組でも一目おかれてしまい、何度予選に申し込んでも出れなかったり、逆にチャンピオン大会に特別に呼ばれたりするようなこともありました。さらに新聞・雑誌などにクイズ問題を寄稿したりクイズのハウツー本を2冊も出版するなど、僕のクイズライフはとても充実しました。

 さて、あれから10年近い歳月が流れました。振り返ってみても、あのときウルトラクイズに参加した決断は正しかったと思っていますし、いい決断だったと思っています。後日談ですが、前の会社の社長がこの番組を見て「こんな番組に出るのだったら、いくらでも休みをあげたのに」と言ったとか。

 一方、先日ある人から皮肉まじりに「またクイズに出るため会社を休むかね」と聞かれましたが、もうそんな気はありません。僕が今、あの時の気持ちになって挑戦し、情熱を捧げなくてはならないものは、仕事であり現実の人生なのです。

 85年でしたか、ミュージカルの「マイ・ワン・アンド・オンリー」を観に行ったら、偶然高島忠夫さんにお会いしました。高島さんは僕のことを覚えていてくださり、

「そうか、今広告の仕事をしているの。それじゃ、その仕事でも日本一になってね」
とおっしゃってくださいました。なにげない言葉でしたが、胸に響きました。なにか小さなもの、どんなにか小さなものでも、日本一になる。僕はあの瞬間は日本一になっていたのです。そのささやかな自信と、一生懸命の人には神様がほほえんでくれることを信じ、これからの人生を切り拓いていこうと思っています。

 

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