TVクイズ大研究

TVのクイズ番組を裸にした本!
数々の番組で優勝を続ける筆者が、自らの経験と頭脳からあみ出した、本当は公開したくない、
TVクイズ攻略のまる秘カリキュラム一挙公開!

©北川宣浩 1981
ハガキ

第2章 選ばれるハガキを出そう


懸賞クイズの心得

 クイズ出場はハガキの抽選が第一関門で、そのあともいろいろ関門があるけれど、抽選だけで当落がきまるのが懸賞クイズ。かつて、懸賞クイズファンのための雑誌もあり、読者欄の戦果報告や落選報告を読むと、単なるハガキの抽選だけとはいえ、並々ならぬ努力がいるものと感心させられた。

 懸賞クイズは広告戦略の一方法で、プレミアム・キャンペーンの一種。公正取引委員会は、プレミアムを「直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が事故の供給する商品又は役務の取引に付随して、相手方に提供する物品、金銭、その他の経済上の利益(景品表示法第2条)」と定義している。はやい話がオマケだ。オマケを刺激にして消費者の需要を喚起し、自社名や自社商品の訴求およびシェアアップをはかるために、あるいは商品を卸売業者、小売業者、消費者の間に、円満かつ、できるだけ速く流通させる戦術として行なわれているのである。決して、企業が消費者に施しをしているのではない。

 石油ショック以来、プレミアム・キャンペーンは減っていたのだが、再び過熱しはじめ、78年度は、オープン懸賞(誰でも応募可能なもの。これに対し商品を買わなくては応募できないなど制限があるものはクローズド懸賞と言う)のプレミアムキャンペーンは186件と前年を上回った。その商品も海外旅行や車など総額二千万から1億円と豪華なものが目立ち、反面"クイズ"の内容は「会社名」「商品名」を当てるものばかり。公取委は景品表示法で景品総額や1景品当たりの最高金額を制限しているものの、オープン懸賞では最高たったの百万円以内としているだけで、企業はキャンペーン効果が高いことからも、オープン懸賞に走りがちだった。

 こうしたことから公取委は「過熱気味のオープン懸賞は、いたずらに応募者の射倖心を煽り、結果的に不当顧客誘引行為にあたる疑いがあり、応募、抽選方法を含め実態を調査し、改善策を検討する」ことになった。そして79年12月、手始めにビール業界に賞品額のワクが設けられた。

 今後の動きがどうなるかはさておき、所詮、懸賞クイズは企業の増収策なのだし、丸の中に文字を入れるだけの、あまりの簡単さでは、景品だけが興味の対象で、問題を解く楽しみがまったくない。だから、ぼくは魅力を感じない。

 しかし、ぼくでも本気になって懸賞クイズに応募したことがある。それはギリシャ政府観光局の「ギリシャ遊学選考試験」(78年夏実施・広告代理店は博報堂)だ。理由は、
1、クイズが50問もあり、三択といえども難しいものが多く、やりがいもある。
2、8泊9日のギリシャ旅行招待が全問正解者の中より50名と多い。
3、告知媒体がぼくの知るかぎり集英社の雑誌のみと、露出量が少ない。

 よって、たくさんハガキを出せば「あわよくばギリシャ!」と出した、出した。50問の答えを百科事典、理科年表、旅行ガイドブック、地図帳など総動員して大調査。ある日の朝日新聞のコラムに「最近、気象庁にギリシャの降雨量は東京の何分の一かといった、若い女性からの同じ質問が相次いだ。不思議に思った職員が調べてみるとこれが『ギリシャ遊学選考試験』……」なんていう記事がでたくらいだ(難しいクイズがでると百科事典を出版している平凡社の電話がパンクするとか)

 答えを調べる

 50もの答えをハガキにビッシリ書くのはたいへんだったが、正解かどうかチェックするのはもっとたいへんだったろう(間違いやすい問題をいくつか抽出してチェックし、あとは目を通さない方法や、チェックしないで抽選してしまい、その後で正誤を確かめ、誤っている分についてのみ再抽選する方法もある)。

 ぼくはこのハガキを一日一通ずつ、規則正しく50枚出した。三日坊主のぼくにしてはよくやった。ついでにガールフレンドに答えを全部教えてやって、あわよくば二人で……、なんて考えていたのだ。彼女の方は百通も出したのだが、ぼくと行く気はなかったようである。

 「公開抽選会を朝日講堂で行ないますので、ぜひおいでください」との案内が来たが、忙しくてぼくらは行けなかった。抽選会も終わったある日、彼女から興奮した電話。
「ねぇ、あたし当たったのよ。ギリシャ!今日手紙が来たの。北川さんにも来たでしょ。応募者全員にって書いてあるわよ」
「えーっ、オレんとこ、何も来てないよ。ホントかよ、郵便遅れてんのかなぁ……」
ところが、待てど暮らせど、ぼくに通知は来なかった。つまり「応募者代表を前にした公開抽選で合格者を選んだ……」と合格通知状にあるのを、彼女は興奮のあまり「応募者みんな合格」と読み違えていたのである。

 応募総数12万9千通、うち全問正解6万余通。百通出した彼女は当選、答えを調べて50通出したぼくは落選。ボーゼンであった。しかし四百通出しても落ちた人がいたし、他人がかわりに出してくれたその一通で合格した人もいたとか。げに恐ろしやハガキの抽選。合格者は平均20〜30通出したとの話。

 ギリシャの旅はオプショナルツアー以外は全部スポンサー持ち。とてもよかったんだって。彼女はおみやげをたくさん買ってきてくれた。

 この懸賞クイズ、79年はクロスワード式の簡単なもので実施された。「今度こそ!」と百通出したがダメだった。

 「ギリシャ遊学選考試験」は当然ギリシャへの観光客誘致が目的である。ギリシャは世界史に必ず出てくる、日本人にはおなじみの国だが、それに反して日本人観光客は少なかった。このような場合若い女性を狙うと成功しやすい。彼女たちは比較的時間も金もあるし、ミエっ張りだし、おしゃべりだ。喫茶店なんかで、「ネェ、あたしギリシャへ行ってきちゃった。よかったわよー(アンタはまだでしょ)。エピダウロスなんてさー、ただの石なんだけどそれが違うのよねー。で、さぁ、一緒になったグループにケン君って子がいたのよォ。その子がネェ……」と、クチコミ効果も満点。このオハナシのように、若い女性を狙えば男は付いていき、結果として観光客数は増えるのダ。

 一方、どうして50問もの難しいクイズにしたのだろうか。それは、歴史や風俗を知ってから行ってみるとおもしろいし、難しいクイズなら答えを調べるために、パンフレットやガイドブックを読む。すると応募しなくてもおもしろさが広がりギリシャをより知ってもらえる……行く気を起こさせることができるのである。ぼくもあれこれ調べたから、その点からも成功したキャンペーンといえよう。折からのエーゲ海ブームもあり、ギリシャへの日本人観光客はドッと増えた。

 それにしてもギリシャ−−−行きたいなぁ。

 

 

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