シャーロック・ホームズ:新訳リブート

Sherlock Holmes: Rebooted Classics

— 現代の日本語でよみがえるホームズの物語 —

青いガーネット

THE BLUE CARBUNCLE

「盗まれた宝石と、クリスマスの奇跡」

第5章 赦しの季節に灯るもの

「ホーナーが逮捕されたとき、私はすぐに宝石を持って逃げるべきだと思ったんです。いつ警察が僕や部屋を調べるかわからなかったから。ホテルの中には、宝石を安全に隠せる場所なんてなかった。だから、何か用事があるふりをして外に出て、姉の家に向かいました。姉はオークショットって男と結婚して、ブリクストン・ロードに住んでいて、市場に出す鳥を太らせてるんです。

 道中、すれ違う男がみんな警官か探偵に見えて、寒い夜なのに汗が顔を流れてました。姉に『どうしたの? 顔色悪いよ』って聞かれたけど、『ホテルで宝石盗難があって、気が滅入ってるんだ』ってごまかしました。それから裏庭に出て、パイプを吸いながらどうするべきか考えてたんです。

 昔、モーズリーって友達がいて、悪事に手を染めてペントンヴィル刑務所に入ってました。ある日、彼と話したとき、盗品の処分方法について語ってくれたんです。私は彼が裏切らないって確信してたし、彼なら石を金に換える方法を教えてくれると思って、キルバーンの彼の家に行こうと決めました。

 でも、どうやって安全にそこまで行くか……ホテルから来るだけでも地獄だったのに、途中で捕まって身体検査されたら、チョッキのポケットに宝石がある。そう考えて、壁にもたれて足元を歩いてるガチョウたちを見てたら、突然ひらめいたんです。どんな名探偵でも出し抜ける方法が。

 姉が数週間前に『クリスマスに好きなガチョウを一羽あげるよ』って言ってたのを思い出して、彼女が約束を守る人だって知ってたから、今もらうことにしたんです。そして、そのガチョウの中に宝石を隠してキルバーンまで運ぼうと。

 裏庭の小屋の裏に、大きくて白くて尾に黒い縞のあるガチョウがいたので、そいつを追い込んで捕まえました。くちばしをこじ開けて、指が届く限り奥に宝石を押し込んだんです。鳥はゴクンと飲み込んで、宝石が食道を通って胃袋に入るのを感じました。

 でも、鳥がバタバタ暴れ出して、姉が『何してるの、ジェム?』って出てきたんです。

『ああ……クリスマスに一羽くれるって言ってたから、どれが一番太ってるか見てたんだよ』

『あら、ジェムの分はもう取ってあるよ。あっちの白い大きいやつ。全部で26羽いるから、1羽はあなた、1羽は私たち、残りの24羽は市場に出す分』

『ありがとう、マギー姉さん。でも、できればさっき触ってたやつがいいな』

『でも、あっちの方が1.5キロは重いわよ。あなたのために特別に太らせたのよ』

『いや、いいんだ。こっちの方がいい。今持っていくよ』

『……好きにすればいいわよ。で、どれが欲しいの?』

『真ん中にいる、尾に黒い縞のある白いやつ』

『わかったわ。じゃあ、絞めて持っていきなさい』

 言われた通りにして、その鳥をキルバーンまで運びました。友人に全部話したら、彼は笑いすぎてむせるほどで、すぐにナイフで鳥を開いたんです。

 でも……宝石はなかった。僕の心臓は水になったみたいに冷え切って、何かとんでもない間違いが起きたと悟りました。

 鳥を置いて、姉の家に駆け戻って、裏庭に飛び込んだんですが、鳥は一羽もいなかった。

『マギー! 鳥たちはどこ!?』

『業者に渡したわよ、ジェム』

『どこの業者!?』

『コヴェント・ガーデンのブレッキンリッジよ』

『尾に縞のあるやつ、もう一羽いた? 僕が選んだのと同じやつ!』

『ええ、いたわ。二羽いたの。私には見分けつかなかったけど』

 その瞬間、すべてが繋がりました。私は全力でブレッキンリッジのところに走ったけど、彼はすぐに全部売ってしまって、どこに行ったかなんて一言も教えてくれなかった。今夜、あなた方も聞いたでしょう? 彼はいつもあんな調子なんです。

 姉は私が気が狂ったと思ってる。私自身も、時々そう思う。今や私は、盗んだ宝石に一度も触れることなく、人生を売り渡した烙印付きの泥棒です……神様……助けてください……!」

 彼は顔を両手で覆い、しゃくり上げながら泣き崩れた。

泣く小男


 部屋には長い沈黙が流れた。聞こえるのは、ライダーの荒い呼吸と、ホームズがテーブルの縁を指先で一定のリズムで叩く音だけだった。

 やがて、ホームズは静かに立ち上がり、ドアを勢いよく開け放った。

「……出て行きなさい」

「えっ……旦那! ああ、神様のご加護を……!」

「もう言葉はいらない。出て行け」

 それ以上の言葉は不要だった。男は飛び出すように階段を駆け下り、ドアがバタンと閉まる音、そして通りへと走り去る足音が、乾いた空気の中に響いた。

「結局のところ、ワトソン…」ホームズは陶製パイプに手を伸ばしながら言った。「僕は警察に雇われてるわけじゃない。彼らの不足を補う義務はないんだ。もしホーナーが本当に危険な状況にあったなら、話は別だけどね。でも、あの男は証言台に立つことはない。となれば、事件は自然と崩れる」

 ホームズは火をつけたパイプをくゆらせながら、少しだけ目を細めた。

「僕は重罪を見逃したことになるかもしれない。でも、もしかしたら一つの魂を救ったのかもしれない。あの男は、もう二度と道を踏み外さないよ。あれだけ怯え切っていればね。今、彼を牢に送れば、一生を刑務所で終えることになる。それに、今は赦しの季節だ。偶然が僕らの前に、奇妙で風変わりな謎を差し出してきた。そしてその解決こそが、僕らへの報酬だよ」

 ホームズは僕の方を見て、にやりと笑った。

「さて、ワトソン先生。ベルを鳴らしていただけますか? 次の調査を始めましょう。今度も、鳥が主役になる事件ですよ」

「青いガーネット」終り  次は「まだらの紐」です。


🏙 登場地名・施設一覧

名称 備考
ベイカー街(Baker Street) ホームズの住居(221B)がある通り → 地図を見る
コベント・ガーデン(Covent Garden) ガチョウの仕入れ先市場 → 地図を見る
ホルボーン(Holborn) ホームズとワトソンが通過する通り → 地図を見る
エンデル街(Endell Street) コベント・ガーデン近くの通り → 地図を見る
オックスフォード街(Oxford Street) ロンドン中心部の繁華街 → 地図を見る
ウィンポール街(Wimpole Street) 医師街として知られる → 地図を見る
ハーレー街(Harley Street) 医師街として有名 → 地図を見る
ウィグモア街(Wigmore Street) オックスフォード街近く → 地図を見る
ブルームズベリ(Bloomsbury) アルファ・インのある地域 → 地図を見る
アルファ・イン(Alpha Inn) ヘンリー・ベイカーが通う酒場(架空)
ブレッキンリッジの店(Breckenridge's stall) ガチョウ販売店(架空)
コスモポリタン・ホテル(Cosmopolitan Hotel) 宝石盗難事件の現場(架空)


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