シャーロック・ホームズ:新訳リブート

Sherlock Holmes: Rebooted Classics

— 現代の日本語でよみがえるホームズの物語 —

青いガーネット

THE BLUE CARBUNCLE

「盗まれた宝石と、クリスマスの奇跡」

第2章 名探偵、ガチョウを語る


「見てください、旦那! うちの女房がガチョウの胃袋から見つけたんです!」

 ピーターソンは手を差し出し、掌の中心に小さな青い宝石を乗せて見せた。豆粒より少し小さいくらいのサイズだったけど、その輝きと透明度は尋常じゃなく、暗がりの中でも電気のようにキラキラと光っていた。

ピーターソンと宝石


 ホームズは口笛を吹いて、ソファから身を起こした。

「おお、ピーターソン! これはまさにお宝だ。君はこれが何か、わかってるのかい?」

「ダイヤモンドですよね? 宝石です。ガラスなんて粘土みたいにスパッと切れます」

「ただの宝石じゃない。これは“あの”宝石だ」

「まさか……モーカル伯爵夫人の青いガーネットじゃないよね!?」僕は思わず叫んだ。

「その通り。サイズも形も、毎日タイムズ紙で広告を見てるから間違いない。唯一無二の石だよ。価値は推測するしかないけど、懸賞金の千ポンドなんて、市場価格の二十分の一にも満たないだろうね」

「せ、千ポンド!? なんてこった……」ピーターソンは椅子にドサッと座り込み、僕らを交互に見つめた。

「それが懸賞金だ。そして僕が知る限り、伯爵夫人はこの宝石を取り戻せるなら、財産の半分を手放してもいいと思ってるらしいよ。感情的な理由があるんだろうね」

「確か、コスモポリタン・ホテルで盗まれたんだったよね?」僕が言うと、

「そう、12月22日。ちょうど五日前だ。容疑をかけられたのは配管工のジョン・ホーナー。証拠がかなり強くて、事件は大陪審に回された。ここに記事があるはずだ」

 ホームズは新聞の山をかき分け、日付を確認しながら一枚を広げて読み上げた。

「コスモポリタン・ホテル宝石盗難事件。26歳の配管工ジョン・ホーナーは、12月22日、モーカル伯爵夫人の宝石箱からブルー・カーバンクルと呼ばれる高価な宝石を盗んだ容疑で起訴された。ホテルの上級係ジェームズ・ライダーは、事件当日、ホーナーを夫人の化粧室に案内し、暖炉の緩んだ鉄棒を修理させたと証言。しばらく一緒にいたが、呼び出されて部屋を離れた。戻るとホーナーは消えていて、机の引き出しはこじ開けられ、夫人が宝石を保管していた小さなモロッコ革の箱は空になっていた。ライダーはすぐに通報し、ホーナーはその晩に逮捕されたが、宝石は彼の身の回りからも部屋からも見つからなかった。伯爵夫人付きのメイド、キャサリン・キューザックは、ライダーの叫びを聞いて部屋に駆けつけ、証言通りの状況を確認した。B地区のブラッドストリート警部は、ホーナーの逮捕時の様子を証言。ホーナーは激しく抵抗し、無実を強く主張した。過去の窃盗歴が証拠として提出されたため、裁判官は即決を避け、大陪審送りとした。ホーナーは審理中、極度の緊張を見せ、最後には気絶して法廷から運び出された」

「ふむ……警察の報告はそんなところか」ホームズは新聞を放り出し、考え込むように言った。

「さて、僕らが解くべき謎は、宝石箱が荒らされた事件と、トッテナム・コート・ロードのガチョウの胃袋がどう繋がっているかだ。ワトソン君、僕らのちょっとした推理が、急に重大で無邪気じゃ済まされない話になってきたよ。これがその宝石だ。そして宝石はガチョウから出てきた。ガチョウはヘンリー・ベイカー氏のもの。あのボロ帽子の紳士だ。だから、今度は彼を見つけて、この事件にどう関わっているのかを突き止めないといけない。まずは一番簡単な方法から試そう。夕刊に広告を出すんだ。それでダメなら、別の手を考える」

「広告には何て書くんだ?」

「鉛筆と紙をくれ。さて……こうだ。

『グッジ・ストリートの角で、ガチョウと黒いフェルト帽を拾いました。ヘンリー・ベイカー氏は、本日午後六時半にベイカー街221Bまでお越しください。』

 これで十分だろう」

「うん、簡潔でいいね。でも彼はそれを見るかな?」

「貧しい人間にとって、あのガチョウは大きな損失だったはずだ。窓を割ってしまったことと、ピーターソンの登場に驚いて、逃げることしか考えられなかった。でも今頃は、あのガチョウを落としたことを後悔してるはずだよ。それに名前を出せば、彼を知ってる人が知らせてくれるだろう。ピーターソン、広告代理店に行って、これを夕刊に載せてくれ」

「どの新聞に出せばいいですか?」

「グローブ、スター、パル・マル、セント・ジェームズ、イブニング・ニュース・スタンダード、エコー……あと思いつく限り全部だ」

「了解です。で、この宝石は?」

「それは僕が預かるよ。ありがとう。あと、ピーターソン、帰りにガチョウを一羽買ってきてくれ。君の家族が食べてる分の代わりに、ベイカー氏に渡さないとね」

 ピーターソンが出て行ったあと、ホームズは宝石を手に取り、光にかざした。

「美しいな……見てくれ、この輝き。もちろん、これは犯罪の核であり焦点だ。良い石ってのは、みんなそうだ。悪魔のお気に入りの餌さ。古い宝石には、面の一つ一つに血塗られた歴史がある。この石はまだ二十年も経ってない。中国南部のアモイ川の河岸で見つかったもので、カーバンクルの特徴をすべて備えてる。ただし色がルビーの赤じゃなくて青ってだけだ。若いくせに、すでに不吉な歴史がある。殺人が二件、硫酸投げつけ事件、自殺、そして複数の盗難……全部この四十グレインの炭素の結晶のために起きたんだ。こんな綺麗なおもちゃが、絞首台や牢屋の呼び水になるなんて、誰が思うかね。さて、金庫にしまって、伯爵夫人に手紙でも書いておこう。『見つかりました』ってね」

「ホーナーって男は、無実だと思うかい?」

「それはまだわからない」

「じゃあ、もう一人のヘンリー・ベイカーは関係してると思う?」

「いや、彼はまったくの善人だと思うよ。自分が持ってた鳥が、金塊より価値があるなんて、夢にも思ってなかったはずだ。それは、広告に反応があればすぐにわかる」

「それまでは何もできないのか?」

「何もできない」

「じゃあ、僕は仕事に戻るよ。でも夕方、指定の時間にまた来るよ。この複雑な事件の解決を見届けたいからね」

「歓迎するよ。7時に夕食だよ。きっとヤマシギの料理だろう。ところで最近の出来事を考えると、ハドソン夫人にヤマシギの餌袋を調べてもらうのも悪くないね。」

拾ったガチョウ




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