ライオンのたてがみ
THE LION'S MANE
―断崖の村を揺るがす、謎の死と最後の言葉―
第4章 第二の悲劇と迫りくる恐怖
最初にそれを聞いたのは、僕の年老いた家政婦だった。田舎の噂話をどこからともなく拾ってくる、あの不思議な“無線”のような能力で。
「マクファーソンさんの犬の話、ご存じですか、旦那さま」
ある晩、彼女がそう言った。
僕は普段、こういう雑談を好まないが、その言葉には耳を奪われた。
「マクファーソンの犬がどうした?」
「亡くなったそうです。ご主人を恋しがって、食事も取らず……」
「誰がそんなことを?」
「皆が話してますよ。ひどく落ち込んで、一週間何も食べなかったとか。それで今日、〈ゲーブルズ〉の若いお二人が浜で見つけたんですって。ご主人が亡くなった、まさにその場所で」
「……まさにその場所で」
その言葉が、僕の記憶に強く刻まれた。
胸の奥で、何かがかすかに形を成し始めた。
犬が死ぬ――それ自体は、忠実な犬らしい最期だ。
だが、“まさにその場所で”とはどういうことだ?
なぜ、あの孤独な浜が犬にとっても死の場所になったのか?
復讐の連鎖に巻き込まれた可能性は?
まさか……いや、しかし――。
ぼんやりした感覚だったが、確かに何かが僕の中で組み上がり始めていた。
数分後、僕は〈ゲーブルズ〉へ向かっていた。
スタックハーストは書斎にいて、僕の頼みで、犬を発見した学生――サドベリーとブラント――を呼んでくれた。
「ええ、あのプールの縁に倒れてました」
一人が言った。
「ご主人の跡を追ったんでしょうね」
僕はその忠実な小さな犬――エアデール・テリア――を、玄関ホールの敷物の上で見た。
体は硬直し、目は飛び出し、四肢はねじれ、全身が苦痛に歪んでいた。
〈ゲーブルズ〉を出た僕は、そのまま海水浴場へ向かった。
太陽は沈み、巨大な断崖の影が黒く水面を覆い、鉛の板のように鈍く光っていた。
あたりには誰もいない。
頭上では二羽の海鳥が輪を描き、甲高く鳴いているだけだった。
薄暗い光の中、僕は砂の上に残る小さな犬の足跡を見つけた。
それは、マクファーソンのタオルが置かれていた岩の周りをぐるりと回っていた。
僕は長い間、そこに立ち尽くした。
影が濃くなるにつれ、僕の思考は激しく駆け巡った。
――夢の中で、何か重大なものを探しているのに、手が届かない。
そんな悪夢に囚われたような感覚だった。
その死の場所に一人立ち、僕はようやく歩き出した。
家へ向かって、ゆっくりと。

小道の頂上に差しかかったときだった。
――閃いた。
僕が必死に掴もうとして掴めなかった“あれ”が、突然、鮮やかに蘇ったのだ。
ワトソンが何度も書いてくれたように、僕の頭の中には、体系立てられてはいないが、仕事に役立つ珍妙な知識が山ほど詰まっている。
僕の脳は、あらゆる種類の荷物が押し込まれた物置部屋のようなもので、何がどこにあるか自分でも曖昧なことが多い。
だが確かに、どこかに“この事件に関係する何か”があった。
まだ輪郭はぼんやりしていたが、どうすればそれをはっきりさせられるかは分かった。
――馬鹿げている。信じがたい。
だが、可能性としては常に存在していた。
僕は徹底的に確かめるつもりだった。
僕の家には、大量の本が詰め込まれた大きな屋根裏部屋がある。
僕はそこへ駆け込み、一時間ほど本の山をひっくり返した。
そしてついに、小さなチョコレート色と銀色の装丁の本を見つけた。
僕は急いで、かすかに記憶していた章を開いた。
――やはり、突飛で、ありえないような話だ。
だが、確かめずにはいられなかった。
その夜、僕は翌日の作業を待ちきれない気持ちで床についた。
だが、その作業は思わぬ邪魔が入った。
朝の紅茶を飲み終え、浜へ向かおうとした矢先、サセックス警察のバードル警部が訪ねてきたのだ。
彼は落ち着いた、がっしりした体格の男で、牛のように穏やかな目をしているのだが、今日はその目が深い不安を湛えていた。
「あなたの豊富なご経験は存じております、ホームズさん」
彼は言った。
「これは非公式の相談でして、他言無用でお願いします。マクファーソンの件ですが……私は、逮捕すべきか否か、判断に迷っております」
「イアン・マードック氏のことですか?」
「ええ。他に考えられる者がいないのです。この辺りは人が少ないのが利点でして、容疑者も限られます。彼でなければ、誰が?」
「彼に対して、どんな証拠が?」
警部が挙げたのは、僕がすでに考えていた点ばかりだった。
マードックの性格、彼を取り巻く謎めいた雰囲気。
犬の件に見られる激しい癇癪。
過去にマクファーソンと揉めたこと。
モード・ベラミーへの好意を巡る嫉妬の可能性。
そして、彼が最近、出立の準備をしているという事実。
「この状況で彼を逃がしたら、私はどう責任を取ればいいのか……」
大柄で冷静な男が、珍しく苦悩していた。
「警部、あなたの事件には決定的な穴があります」
僕は言った。
「まず、事件当日の朝、彼には確かなアリバイがあります。生徒たちと一緒にいて、マクファーソンが姿を現す数分前に、彼は私たちの背後から来た。
次に、彼一人で、あれほどの怪我を同じ体格の男に負わせるのは不可能です。
最後に、あの傷をつけた“道具”の問題があります」
「鞭か、柔らかいムチの類では?」
「傷跡をご覧になりましたか?」
「ええ、私も医者も見ました」
「僕は虫眼鏡で詳細に調べました。特徴があります」
「どんな特徴です?」
僕は机から拡大写真を取り出した。
「こういうとき、僕はこの方法を使います」
「徹底しておられますな、ホームズさん」
「僕が僕であるためには、当然のことです。さて、この右肩を回り込む鞭痕を見てください。何か気づきませんか?」
「……特には」
「強弱が均一ではありません。ここに血の点、ここにも点。下の鞭痕にも同じ特徴がある。これは何を意味するでしょう?」
「見当もつきません。あなたは?」
「あるいは、ね。
この痕をつけた“何か”が分かれば、犯人に大きく近づけます」
「馬鹿げた話ですが……もし、真っ赤に焼けた金網を背中に押しつけたら、網目の交点が強く痕に残るのでは?」
「実に巧妙な比喩ですね。あるいは、硬い結び目のついた九本尾の鞭かもしれません」
「おお、ホームズさん、それだ!」
「あるいは、まったく別の原因かもしれませんよ、警部。
いずれにせよ、今の証拠では逮捕は無理です。
それに、あの最期の言葉――“ライオンのたてがみ”があります」
「私は、イアンの名前を……」
「ええ、僕も考えました。ですが、二つ目の単語は“マードック(Murdoch)”とは似ても似つかない。彼は悲鳴のように叫んだ。僕は“メイン(MANE:たてがみ)”だと確信しています」
「他に考えは?」
「あるにはあります。ですが、確証が得られるまで話す気はありません」
「それはいつ?」
「一時間後――いや、もっと早いかもしれません」
警部は顎をさすり、疑わしげな目で僕を見た。
「あなたの頭の中が見えればいいのですが……。漁船の連中ですか?」
「いや、遠すぎました」
「では、ベラミー親子か? マクファーソンを嫌っていたようですが」
「警部、僕は準備が整うまで口を割りませんよ」
僕は笑って言った。
「さて、お互い仕事があります。正午にここで――」
そこまで言ったときだった。
事件の終幕を告げる、大きな“割り込み”が起きた。
外の扉が乱暴に開き、廊下で足音がもつれ、イアン・マードックが部屋へよろめき込んできたのだ。
顔は青ざめ、髪は乱れ、服はめちゃくちゃ。
骨ばった手で家具にしがみつきながら、かすれた声で叫んだ。
「……ブランデー……ブランデーを……!」
そしてソファへ倒れ込み、苦しげにうめいた。

マードックは一人ではなかった。
その後ろから、帽子もかぶらず、息を切らし、彼と同じくらい取り乱した様子のスタックハーストが飛び込んできた。
「そうだ、ブランデーだ!」
彼は叫んだ。
「こいつ、もう死にかけてるんだ。ここまで運ぶだけで精一杯だった。途中で二度も気を失ったんだぞ!」
生のブランデーを半分ほど飲ませると、驚くほどの変化が起きた。
マードックは片腕で体を起こし、肩からコートを振り落とした。
「頼む……油でも、阿片でも、モルヒネでも……! この地獄みたいな痛みをどうにかしてくれ!」
警部と僕は同時に声を上げた。
彼の裸の肩には、フィッツロイ・マクファーソンの死を刻んだ、あの奇怪な赤い網目模様がくっきりと浮かんでいたのだ。
痛みは局所だけではなく全身を襲っているようだった。
呼吸が止まり、顔が黒ずみ、そして大きく息を吸い込むと胸に手を当て、額には汗が玉のように浮かぶ。
いつ死んでもおかしくない状態だった。
ブランデーを次々に飲ませると、そのたびに命が戻ってくるようだった。
サラダ油を染み込ませた綿を傷に当てると、少しずつ痛みが和らいでいくようだった。
やがて彼の頭は重くクッションに沈み、半分眠り、半分気絶したような状態になった。
だが、少なくとも苦しみからは解放された。
質問などできる状態ではなかったが、彼の容体が安定したと見るや、スタックハーストが僕に向き直った。
「神よ……ホームズ、これは何なんだ? 一体何が起きてるんだ?」
「どこで彼を見つけた?」
「浜だ。マクファーソンが倒れていた、まさにあの場所だ。もし彼の心臓がマクファーソン並みに弱かったら、今頃ここにはいない。運んでくる途中、何度も死んだと思った。〈ゲーブルズ〉までは遠すぎたから、君のところへ来たんだ」
「浜で彼を見たのか?」
「断崖の上を歩いていたら、叫び声が聞こえたんだ。水際で、酔っ払いみたいにふらついていた。急いで駆け下りて、服をかけて、ここまで連れてきた。頼む、ホームズ……君の力を全部使って、この呪いを解いてくれ。もう、この土地で生きていくのが耐えられない。君ほどの名声を持つ男でも、どうにもならないのか?」
「いや、できると思う。スタックハースト、今すぐ来てくれ。警部も一緒に。犯人をあなたの手に渡せるかもしれません」
僕たちは気を失ったマードックを家政婦に任せ、三人で“死のラグーン”へ向かった。