シャーロック・ホームズ:新訳リブート

Sherlock Holmes: Rebooted Classics

— 現代の日本語でよみがえるホームズの物語 —

三破風館

THE THREE GABLES

―恋の破滅が呼ぶ犯罪――屋敷に眠る真実を暴け―

第3章 夜の侵入者と、息子の遺品が語るもの

 ホームズは電報を読んで口笛を吹いた。

「事態は予想以上に早く動いたね、ワトソン。背後に相当な力があるのは、昨日の話でわかっていたけど……。サトロ氏は夫人の弁護士だ。昨夜、君に泊まってもらうよう頼むべきだったかもしれない。彼は頼りにならなかったようだ。仕方ない、またハロー・ウィールドへ行こう」

 僕たちが三破風館に着くと、昨日とはまるで別の家のようだった。
 庭の門には野次馬が集まり、警官が窓や花壇を調べている。
 中に入ると、白髪の紳士――サトロ氏と、赤ら顔で忙しそうな警部がいた。警部はホームズを見ると、旧友のように笑った。

「おや、ホームズさん。今回はあなたの出番はなさそうですよ。普通の泥棒事件です。警察だけで十分ですから、専門家は不要ですな」

「それは心強いですね」
 ホームズは丁寧に返した。「ただの泥棒事件、ですか?」

「そうです。犯人の見当もついてますし、居場所もわかる。バーニー・ストックデイル一味ですよ。あの黒人の大男も見かけられてます」

「素晴らしい。で、何を盗られたんです?」

「いや、それが大した物は……。メイバリー夫人はクロロホルムで眠らされ、家は――おっと、ご本人が来られた」

 昨日の夫人が、青ざめた顔で、若いメイドに支えられて入ってきた。

「ホームズさん、あなたの助言は正しかったのに……」
 夫人は苦く笑った。「私はサトロ氏に迷惑をかけたくなくて、誰も泊めなかったのです」

「今朝、初めて知りました」
 サトロ氏が言った。

「ホームズさんは、誰かに泊まってもらうようにと……。それを怠った報いです」

「ひどくお疲れのようですね」
 ホームズは心配そうに言った。「話すのも辛いでしょう」

「ここに全部ありますよ」
 警部が分厚い手帳を叩いた。

「ですが、もし奥様が話せるなら……」

「話すほどのこともありません。あの悪いスーザンが、侵入の手引きをしたのでしょう。家の隅々まで知っていたようです。クロロホルムの布を口に押し当てられた瞬間だけ覚えていますが、その後どれほど気を失っていたか……。目を覚ますと、一人がベッドのそばにいて、もう一人が息子の荷物を漁っていました。私は飛び起きて、その男に掴みかかったのです」

「危険でしたね」
 警部が言った。

「しがみつきましたが、振り払われました。もう一人に殴られたのかもしれません。その後の記憶はありません。メイドのメアリーが悲鳴を上げ、警察が来ましたが、奴らは逃げてしまいました」

「何を盗られました?」

「価値のあるものは何も……。息子のトランクにも、特別な物はありません」

「手がかりは?」

「一枚の紙切れが……。掴んだ男の服から破れたのかもしれません。床に落ちていました。息子の筆跡です」

「それでは役に立ちませんな」
 警部が言った。「泥棒の字ならともかく」

「その通りです」
 ホームズは微笑んだ。「ですが、興味はあります」

 警部は懐から折りたたんだ紙を取り出した。

「私はね、どんな些細な物でも見逃さない主義でしてね、ホームズさん。二十五年の経験で学んだことです。指紋でも何でも、何か残っているかもしれませんから」

 ホームズは紙を広げた。

「どう見ます、警部?」

「変な小説の最後のページに見えますな」

「確かに、奇妙な話の“終わり”かもしれませんね」
 ホームズは言った。「ページ番号に気づきましたか? 二百四十五。では、残り二百四十四ページはどこへ?」

「泥棒が持ってったんでしょう。役に立つとは思えませんがね」

「こんな紙を盗むために家に侵入するとは……。何か感じませんか、警部?」

「ええ、奴らが慌てて手近な物を掴んだだけでしょう。好きにすればいい」

「なぜ息子の荷物を?」
 夫人が尋ねた。

「下で何も見つからなかったから、上に行ったんでしょう。そう読むのが自然です。ホームズさんは?」

「少し考えます。……ワトソン、窓辺へ」

 僕たちは窓際に移動し、ホームズは紙片を読み上げた。
 それは文章の途中から始まり、こう続いていた――

 「……顔は切り傷と殴打でひどく血を流していた。だが、それ以上に血を流していたのは彼の心だった。彼が命さえ捧げる覚悟で愛した、あの美しい顔――その顔が、彼の苦しみと屈辱を眺めていたのだ。彼女は笑った。そう、神に誓って笑ったのだ。まるで心のない悪魔のように。彼が見上げたその瞬間、愛は死に、憎しみが生まれた。人は何かのために生きねばならない。あなたの抱擁のために生きられないのなら、あなたを滅ぼし、完全な復讐を遂げるために生きよう――」

 「文法が妙ですね」
 ホームズは微笑しながら紙を警部に返した。「三人称の“彼”が、途中で突然“一人称の僕”に変わっている。書いているうちに感情が昂って、自分を主人公に重ねてしまったんでしょう」

「くだらん代物ですな」
 警部は紙を手帳に戻しながら言った。「おや、もう帰るんですか、ホームズさん?」

「ええ、私の出る幕はもうありません。優秀な方々が担当しておられますから。ところでメイバリーさん、旅行をしたいとおっしゃっていましたね?」

「ずっと夢でした、ホームズさん」

「どちらへ? カイロ、マデイラ、リヴィエラ?」

「お金さえあれば、世界一周をしたいですわ」

「なるほど、世界一周。……では、失礼します。今晩、手紙を差し上げるかもしれません」

 窓の外を通り過ぎるとき、僕は警部が小さく笑い、首を振るのを見た。
 “頭の切れる連中は、どこか狂気じみている”――そんな表情だった。



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