三人ガリデブ
THE THREE GABLES
―三人そろえば大金持ち?──奇妙な名字が呼ぶ贋金事件―
第4章 隠された部屋と忍び寄る影
「すばらしい!」ネイサン・ガリデブ氏は息を呑んだ。「これで三人目です!」
「バーミンガムで調査を始めとったんだわ」
ジョン・ガリデブ氏──例の訛りのあるアメリカ人──が言った。「現地の代理人が、地元紙に載ったこの広告を送ってきたんだて。急いで片付けなあかん。もうこの男には手紙を出して、明日の午後四時に、ネイサンさん、あんたが事務所へ行くって伝えてあるわ」
「僕が会いに行くのかい?」
「どう思います、ホームズさん? その方が賢明でしょう? 俺は“放浪してるアメリカ人”で、妙な話を持ち込んどるだけだわ。俺の言うことを信じる理由がない。でも、あんたは英国紳士で信用がある。向こうも耳を傾けるはずだわ。もちろん一緒に行ってもええけど、明日は忙しいんだて。もし何かあれば後から駆けつけるわ」
「いやあ、僕もそんな遠出は久しぶりだな」
「大したことないですよ、ネイサンさん。乗り継ぎは調べてあります。十二時に出れば、二時過ぎには着く。夜のうちに戻れますわ。やることは簡単だて。本人に会って事情を説明し、存在証明の宣誓書をもらうだけだ。まったく……俺なんてアメリカのど真ん中から来とるんだわ。あんたが百マイル動くくらい、どうってことないでしょう」
「その通りですね」
ホームズは静かに言った。「この紳士の言うことはもっともです」
ネイサン氏は、しょんぼりと肩を落とした。
「……分かりました。そこまでおっしゃるなら行きますよ。あなたが私の人生に希望をもたらしてくださったのに、断るのは心苦しいですから」
「では決まりですね」
ホームズは頷いた。「戻られたら、すぐにご報告いただければ」
「任せてくれ」
ジョンは時計を見た。「そろそろ行かないと。明日は見送りに来るよ、ネイサンさん。ホームズさん、帰り道ですか? そうでないなら、ここで失礼するわ。また明日の夜には良い知らせが届けられるだろう」
アメリカ人が部屋を出ると、ホームズの顔から険しい表情がすっと消えた。
「あなたのコレクションを拝見したいものですね、ガリデブさん」
ホームズは言った。「僕の仕事では、どんな知識が役に立つか分かりません。あなたの部屋は宝庫ですよ」
ネイサン氏は、眼鏡の奥で目を輝かせた。
「あなたが聡明な方だとは聞いておりました、ホームズさん。もしお時間があるなら、今すぐでもご案内しますが」
「残念ながら、今は時間がありません。でも、標本は丁寧に分類されているようですし、説明がなくても理解できます。明日、もし伺えたら、少し拝見してもよろしいですか?」
「もちろんです。大歓迎ですよ。部屋は閉めてありますが、地下にいるサンダース夫人が四時までは鍵を持っていますので、開けてもらえます」
「明日の午後は空いています。サンダース夫人に一言伝えておいていただければ。ところで、家の管理はどちらの業者です?」
突然の質問に、ネイサン氏は目を丸くした。
「エッジウェア・ロードのホロウェイ&スティールですが……なぜです?」
「僕は家屋に関しては、ちょっとした考古学者でしてね」
ホームズは笑った。「この建物がクイーン・アン様式か、ジョージアンか気になったんです」
「間違いなくジョージアンですよ」
「そうですか。僕はもう少し古いかと思いましたが……まあ、調べればすぐ分かりますね。では、ガリデブさん、バーミンガムでの成功を祈っています」
家屋管理会社はすぐ近くだったが、もう閉まっていたので、僕らはベイカー街へ戻った。
夕食後、ホームズがようやく話を再開した。
「ワトソン、僕らの小さな問題は、もう終盤だ。君も解決の筋道は見えているだろう」
「いや、さっぱりだよ」
「頭の部分は明らかだし、尻尾は明日見える。広告に何か気づかなかったか?」
「“plough(犂=すき:農具の一種)”の綴りが間違って“plow”になっていた」
「お、気づいたか。ワトソン、成長してるな。あれは悪い英国式綴りだが、アメリカ式としては正しい。印刷屋は原稿のまま組んだんだ。それに“バックボード”もアメリカの言い方だ。自噴井戸も向こうでは一般的だ。つまり、あれは典型的なアメリカ式広告なのに、“イギリスの会社”から出たことになっている。どう思う?」
「アメリカの弁護士──ジョンが、自分で出したんだろう。目的は分からないが」
「まあ、他の可能性もある。だが、彼が“この老人をバーミンガムに行かせたかった”のは確かだ。僕は“無駄足だ”と言ってもよかったが、舞台を空けるために行かせた方がいいと判断した。明日になれば分かるさ」
翌朝、ホームズは早くから出かけ、昼に戻ってきた時には、顔が深刻だった。
「ワトソン、これは思ったより重大だ」
ホームズは言った。「君に知らせておくべきだろう。もっとも、君は危険と聞けば余計に首を突っ込むタイプだがね。僕はもう君をよく知っている。でも危険だ。覚悟しておいてくれ」
「僕らが危険を共有するのは今に始まったことじゃないさ、ホームズ。今回の危険は何なんだ?」
「相当厄介な相手だ。ジョン・ガリデブ──あの“法律顧問”の正体が分かった。あいつは“殺し屋”エヴァンズ。悪名高い殺し屋だ」
「……正直、聞いたことがないな」
「まあ、君の職業は“記憶の中にニューゲート監獄名鑑を持ち歩く”ことじゃないからね」
ホームズは淡々と言った。「僕はロンドン警視庁のレストレードのところへ行ってきた。あそこは想像力に欠けるところもあるが、徹底さと手続きの正確さでは世界一だ。アメリカ人の友人の足跡が記録に残っているかもしれないと思ってね。案の定、悪党の写真ギャラリーで、あの丸っこい顔がにっこり笑っていたよ。『ジェームズ・ウィンター、別名モアクロフト、別名殺し屋エヴァンズ』と書いてあった」
ホームズは封筒を取り出し、中のメモを広げた。
「彼の資料から抜き書きした。──四十四歳。シカゴ出身。アメリカで三人を射殺。政治的なコネで刑務所を脱走。1893年にロンドンへ。1895年1月、ウォータールー・ロードのナイトクラブでカード賭博の揉め事から男を射殺。男は死亡したが、挑発したのは相手側と証明された。死んだ男はロジャー・プレスコット。シカゴで有名な贋金師だ。殺し屋エヴァンズは1901年に釈放。その後は警察の監視下にあるが、表向きは真面目に暮らしている。非常に危険で、常に武器を携帯し、使用をためらわない──以上だ。どうだいワトソン、なかなかの“狩り甲斐のある鳥”だろ」
「……で、奴の狙いは何なんだ?」
「ようやく輪郭が見えてきたよ。家屋管理会社に行ってきた。依頼人は五年前からあそこに住んでいる。その前の一年は空き家だった。さらにその前の住人はウォルドロンという男。事務所の人間はよく覚えていたよ。突然姿を消し、それっきりだそうだ。背が高く、ひげがあり、顔立ちは濃い。
さて、殺し屋エヴァンズが撃ち殺したロジャー・プレスコットも、スコットランドヤードの記録では“背が高く、濃い顔立ちで、ひげのある男”だ。
つまり──仮説としては、アメリカの犯罪者プレスコットは、かつてあの部屋に住んでいた。そして今は、無垢なネイサン氏が“博物館”として使っている。これでようやく一本、線がつながった」
「じゃあ、次の線は?」
「それを探しに行くんだよ」
ホームズは机の引き出しから拳銃を取り出し、僕に渡した。
「僕はいつもの愛用を持っていく。あの“西部の殺し屋”が名前通りの行動を取るなら、備えておかないとね。ワトソン、一時間ほど昼寝しておけ。そしたらリトル・ライダー・ストリートで冒険の時間だ」