シャーロック・ホームズ:新訳リブート

Sherlock Holmes: Rebooted Classics

— 現代の日本語でよみがえるホームズの物語 —

三人ガリデブ

THE THREE GABLES

―三人そろえば大金持ち?──奇妙な名字が呼ぶ贋金事件―

第2章 アメリカ人の“法律顧問”

 彼は指を折りながら続けた。

「アレクサンダー・ガリデブ氏は身寄りはなかった──少なくとも俺は聞いたことがない。でも、あいつは自分の変わった名字を妙に誇りにしててな。それが俺と出会った理由だわ。俺はトピカで法律をやっとったんだが、ある日あの老人が訪ねてきて、自分と同じ名前の男に会えて大喜びしてたんだわ。あいつの趣味みたいなもんで、世界に他の“ガリデブ”がいるかどうか、どうしても知りたいって言うんだ。『もう一人見つけてくれ!』ってな。俺は忙しいし、世界中を歩き回ってガリデブ探しなんてできんって言ったんだが……『いや、お前はやることになる。俺の計画がうまくいけばな』って言うんだわ。冗談だと思っとったが、すぐにその言葉の重みを思い知ることになった」

 彼は深く息を吐いた。

「その一年以内にあいつは死んだ。そして遺言を残した。それがカンザス州史上、最も奇妙な遺言だったんだわ。財産を三つに分けて、俺が一つをもらう。ただし、残りを分け合う“ガリデブ”を二人見つけたら、という条件付きだ。一人あたり五百万ドル──ただし、三人揃って並ばない限り、一セントも触れん」

 僕は思わず息を呑んだ。

「チャンスがデカすぎて、俺は法律事務所を放り出してガリデブ探しに出たんだわ。アメリカには一人もおらんかった。国中をくまなく探したが、一人もだ。そこでイギリスに来た。そしたらロンドンの電話帳に名前があった。二日前に会いに行って、全部説明した。でも、あいつも俺と同じで独り身で、女の親戚はいるが男はいない。遺言には“成人男性三人”って書いてある。だから、まだ一枠空いてる。あんたがその穴を埋めるのを手伝ってくれるなら、報酬は払うわ」

「どうだい、ワトソン」
 ホームズは笑った。「ちょっと風変わりだと言っただろう? しかし、あなた、新聞の“身上相談欄”に広告を出すのが一番手っ取り早かったんじゃないですか?」

「出しましたよ、ホームズさん。でも返事はゼロだわ」

「ほう……これは実に奇妙な問題ですね。暇な時に少し調べてみましょう。ところで、あなたがトピカ出身とは面白い。昔、私に手紙をくれていた人物がいましてね──もう亡くなりましたが──ライサンダー・スター博士。1890年の市長でした」

「スター博士か!」
 ジョンは懐かしそうに笑った。「今でも尊敬されとるわ。さて、ホームズさん、俺たちは進展があれば報告します。二、三日のうちに連絡が行くと思いますわ」
 そう言って、彼は丁寧に頭を下げて出ていった。

 ホームズはパイプに火をつけ、しばらくの間、妙な笑みを浮かべて黙っていた。

「……どう思う?」
 僕はついに尋ねた。

「考えてるんだよ、ワトソン。色々とな」

「何を?」

 ホームズはパイプを外し、低く言った。

「ワトソン、あの男が、あんな支離滅裂な嘘を並べ立てた目的は何だろうってね。正直、面と向かって聞いてやろうかと思った──時には正面突破が一番だからね。でも、騙せたと思わせた方が得策だと判断した。あの男のコートの肘は擦り切れて、ズボンは一年履き続けたみたいに膝が伸びていた。なのに書類と本人の話では“最近ロンドンに来た地方のアメリカ人”だと言う。新聞の身上欄に広告なんて出ていない。僕はあそこは絶対に見逃さない。あれは僕の“獲物を仕留める茂み”みたいなものだからね。あんな上物のキジを見逃すわけがない。
 それに、僕はトピカのライサンダー・スター博士なんて知らない。適当に言ったら知ってるってさ。どこを突いても嘘だらけだ。確かにアメリカ人ではあるだろうが、ロンドン暮らしが長くて訛りが丸くなっている。さて、奴の狙いは何だ? そして“ガリデブ探し”という馬鹿げた話の裏にある動機は? これは調べる価値がある。あの男が悪党だとしても、相当複雑で狡猾だ。
 次は、もう一人のガリデブ──ネイサン氏が本物かどうか確かめないとね。ワトソン、電話してくれ」

 僕は電話を取り、呼び出した。
 受話器の向こうから、細く震える声が聞こえた。

「はい、はい、私がネイサン・ガリデブです。ホームズさんの同僚の方? ホームズさんはいらっしゃいますか? ホームズさんとお話ししたいのですが」

 ホームズが受話器を取り、いつものテンポの速い会話が続いた。

電話をするホームズ


 「はい、彼はここに来ました。ええ、あなたは彼をご存じない……なるほど。……どれくらい? ……たった二日! ……ええ、ええ、もちろんです、とても魅力的なお話ですね。今晩はご在宅ですか? 同名のあの方はいらっしゃらない? ……結構です、それなら伺いましょう。むしろ彼のいないところでお話ししたいので。……ワトソン医師も同行します。……お手紙では、あまり外出されないとありましたね。……では六時頃に伺います。アメリカの弁護士にはお知らせにならなくて結構です。……はい、それでは。失礼します」



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