サセックスの吸血鬼
THE SUSSEX VAMPIRE
―血に濡れた誤解と、母の祈り―
第3章 閉ざされた部屋の夫人と沈黙の理由
その日の夕方、どんよりした霧の十一月の空の下、僕らはランバリーの宿「チェッカーズ」に荷物を置き、サセックスの粘土質の道を馬車で進んだ。曲がりくねった長い小道を抜け、ようやくファーガソンの住む古い農家へ到着した。建物は中央が非常に古く、両翼は新しく増築されており、チューダー式の高い煙突、ホーシャム産の石板屋根には苔がむしていた。
玄関の石段は長年の使用で丸く削れ、ポーチの古いタイルには、建て主の名残として“チーズ”と“男”の図柄が刻まれていた。
中に入ると、天井には太いオーク材の梁が波打つように走り、床はところどころ沈み込んでいた。建物全体に、古さと朽ちかけた匂いが漂っていた。
ファーガソンは、家の中央にある大きな部屋へ僕らを案内した。
巨大な暖炉には1670年と刻まれた鉄製のスクリーンがあり、その奥で薪が勢いよく燃えていた。
部屋を見回すと、時代も場所も混ざり合った奇妙な空間だった。
半分板張りの壁は十七世紀の農家の名残だが、下部には現代の水彩画が並び、上部の黄色い漆喰の部分には、南米の道具や武器が飾られていた。おそらく、二階にいるペルー人の夫人が持ち込んだものだろう。
ホームズは興味津々といった様子で立ち上がり、それらを丹念に観察した。戻ってきたときには、何か思案するような目をしていた。
「おや?」
「おやおや?」
部屋の隅の籠にいたスパニエル犬が、よろよろと主人のほうへ歩み寄ってきた。後ろ足はぎこちなく、尻尾は床を引きずっている。犬はファーガソンの手を舐めた。
「どうしました、ホームズさん?」
「この犬……どうしたんです?」
「それが、獣医にもわからなくて。麻痺の一種らしいんです。脊髄膜炎じゃないかと言われました。でも、治りかけているようで……なあ、カルロ?」
犬の垂れた尻尾が、かすかに震えて応えた。
悲しげな目が、僕ら一人ひとりを見つめた。
まるで、自分の病状について話しているのを理解しているかのようだった。
「急にこうなったんですか?」
「一晩で、です」
「どれくらい前のことです?」
「四ヶ月ほど前でしょうか」
「……非常に興味深い。示唆的ですね」
「どういう意味です、ホームズさん?」
「僕がすでに考えていたことの裏付けになります」
「頼む、教えてくれ、ホームズさん! あなたにはただの知的なパズルかもしれないが、僕にとっては生死の問題なんだ! 妻が……殺人者になりかけている? 子どもが常に危険にさらされている? ふざけないでくれ、ホームズさん。これは冗談じゃ済まないんだ!」
かつてのラグビーの名選手が、全身を震わせていた。
ホームズはそっと彼の腕に手を置いた。
「どんな結末であれ、あなたには痛みが伴うでしょう、ファーガソンさん。できる限り和らげたいと思っています。今はまだ申し上げられませんが、この家を出るまでには、何か確かなことをお伝えできるはずです」
「どうか……そうでありますように! 失礼します、諸君。妻の部屋を見てきます。何か変化があったかもしれない」
彼は部屋を出ていった。
その間、ホームズは壁に飾られた南米の品々を再び調べていた。
戻ってきたファーガソンの顔は沈んでおり、状況が好転していないことは明らかだった。
彼の後ろには、背が高く細身で、褐色の肌をした少女がついてきた。
「お茶の用意ができたよ、ドロレス。奥様に欲しいものがあれば何でも持っていってあげてくれ」
「ミセス、ひどく悪いです」
少女は怒りを含んだ目で主人を見た。
「食べ物いらないって言う。ほんとに悪い。お医者さま必要。あたし、ひとりでいるの怖い」
ファーガソンは僕を見た。
その目は「頼めるか?」と語っていた。
「もしお役に立てるなら、喜んで」
「ドロレス、ワトソン先生を奥様のところへ案内してくれるか?」
「連れてく。許可いらない。ミセス、医者必要」
「では、すぐに行きましょう」
僕は、強い感情で震えている少女のあとに続き、階段を上がり、古い廊下を進んだ。
突き当たりには鉄の金具で補強された重い扉があった。
ファーガソンが無理に押し入ろうとしても、簡単には開かないだろうと思えるほど頑丈だ。
ドロレスはポケットから鍵を取り出し、古いオーク材の扉をきしませながら開けた。
僕が入ると、彼女はすぐに扉を閉め、鍵をかけた。
ベッドには、明らかに高熱にうなされている女性が横たわっていた。
意識は半分ほどしかなく、僕が入ると怯えたような美しい目を向けたが、見知らぬ僕だとわかると、むしろ安心したように息を吐き、枕に沈んだ。
僕は優しく声をかけながら脈と体温を測った。
どちらも高い。
だが、僕の印象では、これは病気というより精神的・神経的な興奮状態に近かった。
「ミセス、こんなふうに一日、二日……あたし、死んじゃうんじゃないかって怖い」
ドロレスが言った。
夫人は赤く火照った美しい顔を僕に向けた。

「……夫はどこ?」
「下におられます。あなたにお会いしたいと」
「会わない。会いたくない」
そして突然、うわごとのように叫んだ。
「悪魔! 悪魔! ああ、どうすればいいの、この悪魔を!」
「何かお力になれませんか?」
「無理。誰にも無理。もう終わり。全部壊れた。何をしても、全部壊れる……」
彼女は何か奇妙な妄想に取り憑かれているようだった。
僕には、正直者のボブ・ファーガソンが“悪魔”だなんて到底思えなかった。
「奥様、旦那様はあなたを深く愛しておられます。今回のことをとても悲しんでいます」
彼女は再び、あの輝く瞳で僕を見た。
「愛してる……そう。でも、私だって愛してる。あの人の心を壊すくらいなら、自分を犠牲にするほどに。そうやって愛してるのに……あの人は、私を……あんなふうに思うなんて」
「旦那様は悲しんでおられます。ただ、理解が追いつかないのです」
「そう、理解できない。でも信じてくれなきゃ」
「お会いになっては?」と僕は提案した。
「だめ。あの言葉、あの顔……忘れられない。会えない。帰って。あなたにできることはない。ひとつだけ伝えて。――子どもを返して。私には子どもを抱く権利がある。それだけ伝えて」
彼女は壁のほうへ顔を向け、それ以上何も言わなかった。
僕は階下へ戻った。
ファーガソンとホームズは、まだ暖炉の前に座っていた。
僕の報告を聞くと、ファーガソンは暗い顔で言った。
「どうやって子どもを渡せというんだ? どんな衝動が起きるかわからない。あの血のついた唇で立ち上がった姿……忘れられない。子どもはメイソン夫人のところが安全だ。そこに置くしかない」
そこへ、家で唯一“現代的”と言える身なりの良いメイドが紅茶を運んできた。
彼女が給仕していると、扉が開き、一人の少年が入ってきた。
青白い顔に金髪、興奮するとすぐに燃え上がるような淡い青の瞳。
父親を見るなり、喜びが爆発したように駆け寄り、少女のように抱きついた。
「お父さん! まだ来ないと思ってた! 迎えに行けなくてごめん! 会えて嬉しい!」
ファーガソンは少し照れたように、そっと息子を引き離した。
「よく来たな、坊や」
彼は金髪を優しく撫でた。
「今日は友人のホームズさんとワトソン先生が来てくれたんだ。夕方を一緒に過ごすことになってね」
「ホームズ……探偵の?」
「そうだ」
少年は僕らを鋭く、どこか敵意すら感じる目で見た。