技師の親指
THE ENGINEER’S THUMB
「高額報酬"闇"バイトの悲劇」
第4章 閉ざされた扉と黒い天井
「何をしている?」僕は、あの手の込んだ作り話にまんまと騙されたことに腹が立ちました。
「"酸性白土"を観察していたんですよ」
僕は皮肉っぽく言いました。「この機械が何のために使われているのか分かれば、もっと的確なアドバイスができると思いまして」
その言葉を口にした瞬間、しまったと思いました。大佐の顔が固まり、灰色の目に不穏な光が宿りました。
「そうか……では、機械の“本当の用途”を教えてやろう」
そう言うと、大佐は一歩下がり、小部屋のドアをバタンと閉めて鍵をかけました。
僕は慌ててドアに駆け寄り、取っ手を引きましたが、びくともしません。蹴っても押しても、まったく開きませんでした。
「おい! おい、大佐! 開けてください!」
僕は叫びました。「ここから出してくれ!」

そして、静寂の中で突然、心臓が喉まで跳ね上がるような音が聞こえました。レバーの金属音と、シリンダーから漏れる水の「シュウッ」という音です。スターク大佐が機械を作動させたのです。
ランプは、僕が槽を調べたときに床に置いたままでした。その明かりの中で、黒い天井がゆっくりと、ぎこちなく、しかし確実に僕の頭上へと迫ってくるのが見えました。僕自身が一番よく知っていたのですが、あの圧力は、あと一分もすれば僕の体を原形もなく押し潰してしまうほどのものでした。
僕は叫びながらドアに体当たりし、爪で鍵を引っかいて必死に開けようとしました。大佐に「出してください!」と懇願しましたが、無慈悲なレバーの音が僕の声をかき消してしまいました。
天井はもう、僕の頭のすぐ上、数十センチのところまで迫っていて、手を伸ばすとその硬くてザラザラした表面に触れました。
そのとき、ふと頭に浮かんだのは、死ぬときの姿勢によって苦しみの度合いが変わるかもしれないということでした。うつ伏せになれば、背骨に直接圧力がかかって、あの「バキッ」という音を想像するだけで身震いしました。仰向けのほうがまだマシかもしれません。でも、あの黒い影が迫ってくるのを見ながら横たわる勇気が、自分にあるのかどうか……
もう立っていることもできなくなったとき、僕の目に希望の光が飛び込んできました。
床と天井は鉄製でしたが、壁は木でできていました。最後に慌てて周囲を見回したとき、板の隙間から細い黄色い光が漏れているのを見つけたのです。それは徐々に広がり、小さなパネルが後ろに押し開かれていきました。
一瞬、信じられませんでした。本当に、死から逃れるための扉がそこにあるなんて。でも次の瞬間、僕はその隙間に飛び込み、反対側で半ば気を失いながら倒れ込みました。
パネルはすぐに閉まりましたが、ランプが砕ける音、そして数秒後に金属板がぶつかる「ガンッ」という音がして、僕がどれほどギリギリで助かったかを物語っていました。
我に返ったのは、誰かが僕の手首を必死に引っ張っていたからです。気づくと、僕は狭い石造りの廊下の床に倒れていて、女性が片手にロウソクを持ち、もう片方の手で僕を引っ張っていました。あのとき警告してくれた、あの女性でした。僕が愚かにも無視してしまった、善意の人です。
「早く! 早くっ!」
彼女は息を切らしながら叫びました。「すぐに来る! あなたがいないことに気づく! お願い、時間ない、無駄にしないで!」
今度こそ、僕は彼女の言葉を無視しませんでした。よろよろと立ち上がり、彼女と一緒に廊下を走り、曲がりくねった階段を駆け下りました。階段の先には広い通路があり、そこに着いた瞬間、足音と怒鳴り声が聞こえてきました。ひとつは僕たちのいる階から、もうひとつは下の階から、互いに呼応するように。
彼女は立ち止まり、焦った様子で周囲を見回しました。そして、月明かりが差し込む寝室のドアを開けました。
「ここしかないわ」
彼女は言いました。「高いけど……飛び降りられるかもしれない」
そのとき、廊下の奥に光が現れ、スターク大佐の痩せた姿がランタンを片手に、もう片方には肉切り包丁のような武器を持って走ってくるのが見えました。
僕は寝室を突っ切って窓を開け、外を見ました。月明かりに照らされた庭は静かで、清々しく、穏やかでした。高さはせいぜい十メートルほど。
僕は窓枠に乗り出しましたが、飛び降りる前に、彼女と追っ手の間で何が起こるかを見届けたいと思いました。もし彼女が傷つけられるようなことがあれば、どんな危険を冒してでも助けに戻るつもりでした。
その考えが頭をよぎった瞬間、大佐がドアに現れ、彼女を押しのけて通ろうとしました。でも彼女は彼にしがみつき、必死に引き止めました。
「フリッツ! フリッツ!」
彼女は英語で叫びました。「前に約束したでしょ? 二度とこんなことしないって! 彼は黙ってるわ! 絶対に黙ってます!」
「お前は狂ってる、エリーゼ!」
大佐は怒鳴りながら彼女を振りほどこうとしました。「お前が俺たちを破滅させるんだ! 奴は見すぎた! どけ、通せ!」
彼は彼女を脇に突き飛ばし、窓に駆け寄って、僕に向かって重い刃物を振り下ろしました。
僕はすでに窓枠からぶら下がっていて、両手で縁を握っていました。その刃が僕に当たった瞬間、鈍い痛みが走り、握力が緩み、僕は庭へと落下しました。

落ちた衝撃で体は揺さぶられましたが、怪我はありませんでした。なので、僕はすぐに立ち上がって、茂みの中をできる限りの速さで走りました。まだ危険から完全に逃れたわけではないと理解していたからです。
ところが、走っている途中で突然、強烈なめまいと吐き気に襲われました。痛みが走る手を見下ろすと、そこで初めて、親指が切り落とされていて、血が勢いよく流れているのに気づきました。
ハンカチで手を縛ろうとしましたが、耳の奥で「ブーン」という音が鳴り始め、次の瞬間、僕はバラの茂みの中で意識を失いました。