技師の親指
THE ENGINEER’S THUMB
「高額報酬"闇"バイトの悲劇」
第2章 高額報酬の誘い
「まず最初に、僕は孤児で独身です。ロンドンの下宿にひとりで住んでいます。職業は水圧技師で、グリニッジにある有名な会社、ヴェナー&マセソン社で七年間、見習いとして働いてきました。経験はそれなりに積んでいます。二年前、見習い期間を終えたのと同時に、亡くなった父の遺産を受け取ることができたので、独立して自分の事務所をヴィクトリア通りに構えました。
独立して最初の数年は、誰にとっても退屈なものだと思いますが……僕にとっては特にそうでした。この二年間で、相談が三件、小さな仕事が一件。それだけです。収入は総額で27ポンド10シリング。毎日、朝九時から午後四時まで、狭い事務所でじっと待っていました。でも、次第に気が滅入ってきて、もう仕事なんて来ないんじゃないかって思うようになっていました。
ところが昨日、ちょうど事務所を閉めようかと思っていたとき、事務員が入ってきて『商談でお会いしたいという紳士がいらっしゃっています』と告げました。名刺も持ってきてくれて、そこには『ライサンダー・スターク大佐』と刷られていました。
そのすぐ後ろから、本人が現れました。背丈は中くらいですが、驚くほど痩せている方でした。あんなに細い人は見たことがありません。顔は鼻と顎に向かって尖っていて、頬の皮膚は骨にぴったり張り付いているようでした。でも、それは病気ではなく、彼の体質のようでした。目は輝いていて、足取りも軽く、態度も自信に満ちていました。服装は質素ながらもきちんとしていて、年齢は三十代後半から四十くらいだと思います。

『ハザリーさんですかな?』
彼は少しドイツ訛りのある英語で話しかけてきました。『あなたは、専門的な技術に優れているだけでなく、秘密を守る能力にも長けていると推薦されました』
僕は若者らしく、そんな評価に少し舞い上がりながら頭を下げました。『そのように言ってくださったのは、どなたでしょうか?』
『それは……今のところは伏せておいたほうがよろしいかと。あなたが孤児で独身、ロンドンにひとりで住んでいるという情報も、同じ筋から得ています』
『それは事実です。ただ、失礼ながら、それが僕の技術的な資格とどう関係するのか、少し分かりかねます。ご用件は、技術的な話だと伺っておりますが?』
『もちろんです。ですが、私の話はすべて意味があります。あなたにお願いしたい仕事があります。ただし、絶対的な秘密が必要です——絶対的な、ですよ。そして、家族と暮らしている人よりも、ひとり暮らしの方が秘密を守りやすいというのは、当然のことですな』
『秘密を守ると約束すれば、必ず守ります』
彼は僕の顔をじっと見つめました。あんなに疑い深く、探るような目は見たことがありません。
『では、約束していただけますかな?』
『はい、約束します』

「完全に、徹底的に沈黙を守っていただきたい。事前も、作業中も、そしてその後も。口頭でも書面でも、一切この件に触れないこと。よろしいですか?」
「すでに約束しました」
「よろしい」
そう言うや否や、大佐は雷のような速さで部屋を横切り、ドアを勢いよく開け放った。廊下には誰もいなかった。
「問題ないですな」
彼は戻ってきて、椅子を僕のすぐそばに引き寄せた。「事務員というのは、時に主人の私事に興味を持つものですからね。これで安心して話せます」
そしてまた、あの探るような目で僕をじっと見つめてきた。
痩せこけたこの男の奇妙な振る舞いに、僕の中で嫌悪と、恐怖に近い感情がじわじわと湧き上がってきた。依頼人を失うかもしれないという不安があっても、僕はつい苛立ちを隠しきれなかった。
「ご用件をお話しいただけますか」
僕は少し強めに言った。「僕の時間は貴重なんです」——神よ、この最後の一言をお許しください。つい口をついて出てしまった。
「一晩の仕事で、五十ギニーというのはどうです?」
「……申し分ありません」
「一晩と言いましたが、実際は一時間ほどでしょう。水圧式のプレス機が不調でしてね。あなたに原因を見てもらえれば、あとは自分たちで直せます。どうです、この依頼?」
「作業は軽そうですし、報酬も十分すぎるほどです」
「その通り。今夜、最終列車で来ていただきたい」
「どちらへ?」
「バークシャー州のアイフォードです。オックスフォードシャーとの境にある小さな村で、レディングから七マイルほどの場所です。パディントン駅からの列車で、十一時十五分頃に着くはずです」
「分かりました」
「駅まで馬車で迎えに行きます」
「ということは、そこから馬車で移動するんですね?」
「ええ、我々の場所は田舎の奥地にあります。アイフォード駅から七マイルはあります」
「それだと、着くのは真夜中ですね。帰りの列車はないでしょうし、泊まることになりますね」
「はい、簡易ベッドくらいは用意できます」
「それは少々困りますね。もっと都合のいい時間に伺うことはできませんか?」
「遅い時間に来ていただくのが最善だと判断しました。ご不便への対価として、若く無名なあなたに、業界の重鎮でも得られない報酬をお支払いするのです。もちろん、辞退されるなら今のうちです」
僕は五十ギニーのことを考えました。今の僕には、喉から手が出るほどありがたい金額でした。全収入の倍ですから……。
「いえ、問題ありません。喜んでご希望に従います。ただ、もう少し詳しく、僕が何をするのか教えていただけますか?」
「当然です。秘密保持の誓約が、あなたの好奇心を刺激したのも無理はありません。すべてを説明せずに巻き込むつもりはありません。盗み聞きの心配はありませんね?」
「まったくありません」
「では、こういうことです。あなたもご存じかもしれませんが、酸性白土というのは非常に価値のある鉱物で、イギリスでは限られた場所にしか存在しません」
「聞いたことはあります」
「少し前、私はレディングから十マイルほどの場所に、小さな土地を購入しました。運良く、その畑の一角に酸性白土の鉱床を発見したのです。調査してみると、その鉱床は左右にあるもっと大きな鉱床の中間に位置していて、両隣の土地は他人の所有地でした。彼らは、自分の土地に金鉱並みの価値があることをまったく知らなかったのです。
当然、彼らが気づく前に土地を買い取るのが私の利益になります。しかし、資金がありませんでした。そこで、数人の仲間に秘密を打ち明け、まずは自分たちの小さな鉱床をこっそり掘り進めて、資金を稼ごうという話になったのです。
その作業のために、水圧式のプレス機を設置しました。ですが、先ほど申し上げた通り、その機械が故障してしまった。そこで、あなたの意見を伺いたいのです。
この秘密は非常に重要でして、もし水圧技師が我々の家に出入りしていると知られれば、すぐに疑いを持たれ、事実が露見すれば、土地の買収計画はすべて水の泡です。だからこそ、あなたにアイフォード行きの件を誰にも話さないよう約束していただいたのです。ご理解いただけましたか?」
「はい、よく分かりました。ただ一つだけ、酸性白土の採掘に水圧プレスが必要だという点が、少し腑に落ちません。僕の理解では、あれは砂利のように掘り出すものだと……」
「ふふ、我々には独自の方法があるんです。土をレンガ状に圧縮して、何であるか分からないように運び出すんですよ。まあ、細かい話です。ハザリーさん、私はあなたを完全に信頼しています。今夜十一時十五分、アイフォードでお待ちしていますよ」
「必ず伺います」
「誰にも、一言たりとも話さないように」
彼は最後に長く僕を見つめ、冷たく湿った手で握手を交わすと、足早に部屋を出ていった。
さて、冷静になって考えてみると、この突然の依頼には驚かされました。もちろん、報酬は僕が自分で設定する額の十倍以上で、今後の仕事につながる可能性もある。けれど、依頼人の顔つきや態度には、どうにも不快な印象が残っていて、酸性白土の話だけでは、真夜中に呼び出される理由や、口外禁止の厳しさを説明しきれていない気がしました。
とはいえ、僕は不安を振り払い、しっかり夕食をとって、パディントン駅へ向かい、口止めの約束を守って出発しました。
「レディングでは、車両だけでなく駅も乗り換えなければなりませんでした。でも、最終列車には間に合って、十一時過ぎにはアイフォードの小さな、薄暗い駅に着きました。
降りたのは僕ひとりだけで、ホームには眠そうな駅員がランタンを持って立っているだけでした。駅のゲートを抜けて外に出ると、朝に会ったあの男が、影の中で待っていました。
彼は何も言わず、僕の腕をつかむと、開いたままの馬車に急かすように乗せました。窓を両側から引き上げ、木枠を軽く叩くと、馬車は馬の力の限り走り出しました」
「馬は一頭でしたか?」
ホームズが静かに口を挟んだ。
「はい、一頭だけでした」
「毛色は?」
「乗るとき、横のランプの光で見えました。栗毛でした」
「疲れている様子は?」
「いえ、艶もあって元気そうでした」
「ありがとうございます。途中で遮ってしまい、申し訳ありません。どうぞ、続きを」
「はい。馬車はその後、少なくとも一時間は走ったと思います。スターク大佐は七マイルほどだと言っていましたが、速度と時間から考えると、十二マイル近かったんじゃないかと思います。
道中、大佐はずっと僕の隣に座っていて、黙ったままでした。何度か横目で彼の顔を見ましたが、そのたびに、僕のことをじっと見つめているのに気づきました。
この辺りの田舎道は舗装が悪いようで、馬車はガタガタと揺れ続けました。窓の外を見ようとしましたが、すりガラスで何も見えず、時折ぼんやりと光が流れるだけでした。
退屈を紛らわせようと何度か話しかけましたが、大佐は「ええ」「そうですね」といった一言だけで、会話はすぐに途切れてしまいました。