シャーロック・ホームズ:新訳リブート

Sherlock Holmes: Rebooted Classics

— 現代の日本語でよみがえるホームズの物語 —

技師の親指

THE ENGINEER’S THUMB

「高額報酬"闇"バイトの悲劇」

第3章 屋敷の謎の美女

 やがて、道の揺れが砂利道の滑らかな感触に変わり、馬車が止まりました。スターク大佐は勢いよく外に飛び出し、僕が後に続くと、すぐに僕の腕を引いて、目の前のポーチへと引き込みました。

 まるで馬車から直接建物の中に吸い込まれたようで、屋敷の外観は一瞬たりとも見ることができませんでした。僕が敷居をまたいだ瞬間、背後のドアが重々しく閉まり、馬車の車輪の音が遠ざかっていくのが微かに聞こえました。

 屋内は真っ暗で、大佐はぶつぶつと何かを呟きながら、マッチを探していました。

 そのとき、廊下の向こう側でドアが開き、黄金色の光がこちらに向かって差し込んできました。光が広がると、ランプを頭上に掲げた女性が現れ、顔を前に突き出してこちらを覗き込んできました。

 彼女は美しい人でした。ランプの光が黒いドレスに艶やかに反射していて、高級な生地だとすぐに分かりました。

 彼女は異国の言葉で何かを問いかけるように話し、大佐がぶっきらぼうな一言で返すと、驚いてランプを落としかけました。

 大佐は彼女に近づき、耳元で何かを囁きました。そして彼女をそっと部屋の中へ押し戻すと、今度は自分がランプを手にして僕のほうへ戻ってきました。

 「少しの間、こちらの部屋でお待ちいただけますか」
 そう言って、別のドアを開けました。

 そこは静かで質素な部屋で、中央には丸いテーブルがあり、いくつかのドイツ語の本が散らばっていました。大佐はランプをドア脇の小型オルガンの上に置きました。

 「すぐ戻ります」
 そう言い残して、暗闇の中へ消えていきました。

 僕はテーブルの本に目をやりました。ドイツ語は分かりませんが、科学の論文が二冊、詩集が数冊あることは何となく分かりました。

 窓の外を見ようと近づきましたが、分厚いオーク材のシャッターがしっかりと閉じられていて、外の様子はまったく分かりませんでした。

 この屋敷は驚くほど静かでした。どこかの廊下で古い時計がカチカチと音を立てていましたが、それ以外はまるで死んだような静けさでした。

 不安がじわじわと僕の中に広がってきました。いったいこのドイツ人たちは何者で、こんな辺鄙な場所で何をしているんだ? そもそも、ここがどこなのかも分かりません。アイフォードから十マイルほど離れていることしか分からない。方角も分からない。レディングや他の町が近くにあるかもしれないけど、この静けさからして、確実に田舎でした。

 僕は部屋の中を行ったり来たりしながら、小声で鼻歌を歌って気持ちを落ち着けようとしました。五十ギニーの報酬に見合うだけの仕事はしているはずだと、自分に言い聞かせながら。

 突然、何の前触れもなく、静寂の中で扉がゆっくりと開きました。

 女性がそこに立っていました。背後の廊下は暗く、僕の部屋のランプの黄色い光が彼女の顔を照らしていました。

 一目で分かりました。彼女は恐怖に震えていたのです。その姿を見て、僕の心にも冷たいものが走りました。

 彼女は震える指を一本立てて、僕に「黙って」と合図しました。そして、怯えた馬のように何度も後ろを振り返りながら、たどたどしい英語で囁きました。

 「あたし……帰ったほうがいいと思う。ここにいてはダメ。あなたができることなんて、ないです」

 「でも、マダム」
 僕は静かに答えた。「僕はまだ、依頼された機械を見ていません。それを確認するまでは、帰るわけにはいきません」

帰ってと哀願される


 「ここにいても、よいことはありません」
 彼女はそう言って続けました。「あの扉を通って出ていけます。誰も止めたりしません」

 でも、僕が微笑んで首を横に振るのを見て、彼女は急に堪えていたものを解き放つように一歩踏み出し、両手をぎゅっと握りしめました。

 「お願い……!」
 彼女は声を潜めて囁きました。「手遅れになる前に、ここから逃げて!」

 僕はもともと、ちょっと頑固な性格でして。むしろ、何か障害があるほうが燃えるタイプなんです。五十ギニーの報酬のこと、ここまでの長旅、そしてこれから迎えるであろう不快な夜のことを思い返しました。全部、無駄にするわけにはいきません。依頼を果たさず、報酬も受け取らずに逃げ帰るなんて、納得できませんでした。

 この女性が、もしかしたら妄想に取り憑かれた人かもしれないとも思いました。だから、内心では彼女の様子にかなり動揺していたものの、僕はあくまで平静を装い、首を横に振ってここに残る意思を伝えました。

 彼女がもう一度懇願しようとしたそのとき、上の階でドアがバタンと閉まる音がして、複数の足音が階段を下りてくるのが聞こえました。彼女は一瞬耳を澄まし、絶望的な仕草で両手を上げると、来たときと同じように音もなく姿を消しました。

 現れたのはスターク大佐と、ずんぐりした体格にチンチラのような髭を二重あごの皺から生やした男でした。彼はファーガソン氏と紹介されました。

 「こちら、私の秘書兼マネージャーです」
 大佐が言いました。「ところで……この扉、閉めておいたはずなんですが。すみません、すきま風が入ってきたでしょう」

 「いえ、むしろ僕が開けたんです。ちょっと空気がこもっていたので」

 彼はまた、あの疑い深い目で僕をじっと見ました。

 「では、そろそろ本題に入りましょうか」
 そう言って、大佐は続けました。「ファーガソンと私で、機械のところまでご案内します」

 「帽子をかぶったほうがいいですか?」

 「いえ、屋内ですのでそのままで」

 「えっ、屋内で酸性白土を掘ってるんですか?」

 「いやいや、ここでは圧縮だけです。掘るのは別の場所で。とにかく、見ていただきたいのは機械の不具合だけです」

 僕たちは一緒に階段を上がりました。先頭をランプを持った大佐が進み、僕と太ったマネージャーがその後ろに続きました。

 屋敷の中はまるで迷路のようでした。廊下に通路、狭くて曲がりくねった階段、小さくて低いドア。敷居は何世代にもわたって踏みならされ、すり減っていました。二階以上にはカーペットも家具もなく、壁の漆喰は剥がれ、湿気で緑色のカビが浮き出ていました。

 僕はなるべく平然を装いましたが、あの女性の警告を忘れたわけではありません。無視はしても、警戒はしていました。だから、同行する二人の動きには常に注意を払っていました。

 ファーガソン氏は無口で陰気な印象でしたが、少なくとも同じ国の人間だということは、彼のわずかな言葉遣いから分かりました。

 やがてスターク大佐が、低いドアの前で立ち止まり、鍵を開けました。中は小さな四角い部屋で、三人が同時に入るのもやっとでした。ファーガソン氏は外に残り、大佐が僕を中へ案内しました。

 「ここが、例の水圧プレス機の内部です」
 大佐が言いました。「もし誰かがこの装置を作動させたら、非常にまずいことになります。この天井が、上から降りてくるピストンの底でして、何トンもの力でこの金属床に押しつけられるんです。外側には水の柱があって、それが力を受けて増幅する仕組みになっています。動作自体は問題ないのですが、少し動きが重くなっていて、圧力も若干落ちているようです。どうか、原因を見ていただけませんか」

 僕はランプを受け取り、機械をくまなく調べました。確かに巨大な装置で、相当な圧力をかけられる構造でした。

 外に出て、操作レバーを押し下げてみると、すぐに「シュウッ」という音がして、側面のシリンダーから水が逆流しているのが分かりました。調べてみると、駆動ロッドの先端に巻かれていたゴムバンドが縮んでいて、ソケットにぴったりはまっていなかったんです。これが圧力低下の原因でした。

 僕はそのことを二人に説明し、彼らは熱心に聞き入って、修理方法についていくつか実用的な質問をしてきました。すべて答え終えると、僕は再び機械の主室に戻り、好奇心からもう一度じっくりと観察しました。

 一目で分かりました。酸性白土の話なんて、まったくの作り話です。こんな強力な装置が、そんな用途のために設計されているはずがありません。

 壁は木製でしたが、床は大きな鉄の槽で覆われていて、表面には金属の沈殿物がこびりついていました。僕はしゃがみ込み、それが何なのか確かめようと削っていたとき、背後からドイツ語の呟き声が聞こえ、見上げると、あの骸骨のような顔の大佐が僕を見下ろしていました。



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