シャーロック・ホームズ:新訳リブート

Sherlock Holmes: Rebooted Classics

— 現代の日本語でよみがえるホームズの物語 —

まだらの紐

THE SPECKLED BAND

「“まだらの紐”が夜を這う──密室の死を解き明かせ」

第3章 屋敷に潜むもの

 ウォータールー駅では運よくレザーヘッド行きの列車に乗ることができた。駅前の宿で馬車を借り、サリー州の美しい田園地帯を四、五マイルほど走った。

 空は晴れ渡り、白い雲がぽっかり浮かび、木々や生け垣は新芽を出し始めていた。湿った土の匂いが風に乗って漂い、春の訪れを感じさせる完璧な日だった。

 でも僕にとっては、その穏やかな風景と、これから向かう陰惨な事件とのギャップが、なんとも奇妙に感じられた。

 ホームズは馬車の前方に座り、腕を組み、帽子を深くかぶって、顎を胸に沈めて黙り込んでいた。思索の海に沈んでいるようだった。

 突然、彼が肩を叩いて僕を呼び、前方を指差した。

 「見てごらん」

 緩やかな丘の上に、木々が密集した公園が広がっていた。その奥に、灰色の切妻屋根と高い棟木が、枝の間から突き出している。

 「あれがストーク・モランかね?」
 ホームズが帽子のつばを持ち上げながら、前方の屋敷を見て言った。

 「へぇ、そだごど。あれがグリムズビー・ロイロット先生の屋敷だっちゃ」
 御者は手綱を握りながら、のんびりと答えた。

 「何か工事をしているようだね。あそこが目的地だ」

 「村はあっちさ。屋根が集まってるとこ見えるべ? でも屋敷さ行ぐんなら、この踏み段越えて、畑の小道通ったほうが早ぇど。ほれ、あそこに女の人歩いでらっしゃ」

 「……あの方は、ストーナー嬢でしょうね」
 ホームズは目を細めて言った。「ええ、御者くんの言う通りに小道を歩きましょう」

馬車



 僕たちは馬車を降りて運賃を払い、御者はガラガラと音を立てながらレザーヘッドへ戻っていった。

 「建築か何かの仕事で来たと思わせておいた方がよろしいかと」
 踏み段を越えながら、ホームズがぽつりと言った。「そうすれば、余計な噂も立ちませんから。こんにちは、ストーナーさん。ご覧の通り、約束は守りましたよ」

 朝の依頼人――ヘレン嬢は、僕たちの姿を見つけるなり駆け寄ってきた。顔には安堵と喜びがはっきりと浮かんでいた。

 「お待ちしておりました!」
 彼女は両手で僕たちと握手しながら、嬉しそうに言った。「すべて順調です。ロイロット博士は町へ出かけて、夕方までは戻らないと思われます」

 「先ほど、父上とお目にかかる機会がありました」
 ホームズは穏やかに言い、簡潔にその時の出来事を説明した。

 ヘレン嬢は話を聞くうちに、唇の色がさっと失われていった。

 「……なんてこと……」
 彼女は息を呑んだ。「じゃあ、あの人、私を追ってきたんですね」

 「そのようです」

 「本当に狡猾な人で……いつどこで見張られているのか、まったく油断できません。戻ってきたら、何を言われるか……」

 「彼も用心すべきでしょう。自分よりも狡猾な者が後を追っているかもしれませんから。今夜は、必ず部屋に鍵をお掛けください。もし暴力的な行動に出た場合は、すぐにハローの叔母様のもとへお連れします。さて、時間を有効に使いたいので、さっそく調査すべきお部屋へご案内いただけますか?」

ロイロット邸



 屋敷は灰色の石造りで、苔に染みが浮かび、中央の高い棟から左右に湾曲した翼が蟹の爪のように突き出していた。左翼の窓は割れて板で塞がれ、屋根も一部崩れていて、まるで廃墟のようだった。中央棟も状態は良くなかったが、右側の棟は比較的新しく、窓にはブラインドが下ろされ、煙突からは青い煙がくゆっていた。そこが家族の居住区なのだろう。

 建物の端には足場が組まれ、石壁が一部崩されていたが、作業員の姿は見当たらなかった。ホームズは手入れの行き届いていない芝生をゆっくりと歩きながら、窓の外観をじっくりと観察していた。

「こちらが、以前あなたがお休みになっていたお部屋ですね。中央が姉上の部屋、そして建物寄りがロイロット博士の部屋でしょうか?」

「はい、そうです。でも今は、真ん中の部屋で寝ています」

「改修工事の間だけ、ということですね。ところで、あの端の壁に修繕が必要な様子は見受けられませんが」

「ええ、実際には何の必要もありませんでした。私を部屋から移すための口実だったのだと思います」

「なるほど……それは興味深いですね。さて、この狭い翼の反対側には、三つの部屋に通じる廊下があるわけですが、窓はございますか?」

「はい、でもとても小さな窓です。人が通れるような幅ではありません」

「夜間はドアに鍵をかけていらっしゃったとのことですから、そちら側から部屋に入ることは不可能ですね。では、恐れ入りますが、今のお部屋に入ってシャッターを閉めていただけますか?」

 ヘレン嬢が部屋に入り、シャッターを閉めると、ホームズは開いた窓から丁寧に観察し、あらゆる方法でシャッターをこじ開けようと試みた。しかし、隙間はなく、ナイフを差し込んでバーを持ち上げることもできなかった。次に虫眼鏡で蝶番を調べたが、それは頑丈な鉄製で、分厚い石壁にしっかりと固定されていた。

「ふむ……」ホームズは顎を掻きながら呟いた。「僕の仮説には、いくつか難点があるようですね。シャッターが施錠されていれば、誰も通り抜けることはできません。さて、内部から何か手がかりが得られるか見てみましょう」

 小さな脇の扉から白く塗られた廊下に入り、そこから三つの寝室へ通じていた。ホームズは三番目の部屋――博士の部屋――の調査を拒み、僕たちはすぐに二番目の部屋へ向かった。そこはヘレン嬢が現在使っている部屋であり、姉が亡くなった場所でもあった。

 部屋は素朴で天井が低く、古い田舎屋敷らしい大きく口を開けた暖炉があった。角には茶色のチェスト、もう一方には白いカバーの細長いベッド、窓の左側には化粧台が置かれていた。家具はそれらと、小さな籐椅子が二脚、中央にはウィルトン製の四角いカーペットが敷かれているだけだった。

 壁の板張りと床板は、虫食いのある古びたオーク材で、屋敷の創建当時からのものかもしれないほど色褪せていた。

 ホームズは椅子を一つ引き寄せて隅に座り、部屋の隅々まで目を走らせた。天井から床まで、細部に至るまで見逃さないように。

「このベルの紐は、どちらへ通じているのですか?」
 彼はベッドの脇に垂れ下がった太い呼び鈴のロープを指差した。房飾りは枕の上にまで垂れていた。

「家政婦の部屋へつながっています」

「他の家具に比べて新しいようですね?」

「はい、二年前に取り付けられたものです」

「お姉さまが希望されたのでしょうか?」

「いえ、姉が使っていたのを見たことはありません。私たちはいつも自分で必要なものを取りに行っていましたから」

「なるほど、それならこんな立派なベルロープは不要だったはずですね。少々失礼しますが、床を確認します」

 ホームズは虫眼鏡を手に床に腹ばいになり、板の隙間を前後に這いながら丹念に調べた。次に壁の板張りも同様に確認し、最後にベッドへ向かい、壁を上下に目で追いながらじっと見つめた。

 そして、呼び鈴のロープを手に取り、ぐっと引っ張った。

「これは……偽物ですね」

「鳴らないんですか?」

「ええ、線すら繋がっていません。これは非常に興味深い。ご覧の通り、ロープは小さな通気口のすぐ上のフックに固定されています」

「なんて馬鹿げた……今まで気づきませんでした」

「奇妙ですね……」ホームズはロープを引きながら呟いた。「この部屋には、いくつか非常に不可解な点があります。例えば、通気口を外気ではなく隣室に通すなんて、建築家の判断とは思えません」

「それも、比較的最近の改修です」

「呼び鈴と同じ時期に?」

「ええ、その頃にいくつか細かい変更がありました」

「なるほど、実に興味深い改修ですね。偽物の呼び鈴に、通気しない通気口。では、ストーナーさん、次は隣室の調査に移ります」

 ロイロット博士の部屋は、継娘の部屋より広かったが、家具は質素だった。キャンプ用ベッド、小さな木製の本棚には専門書が並び、ベッド脇には肘掛け椅子、壁際には普通の木製椅子、丸テーブル、そして大きな鉄製の金庫が目に入った。

 ホームズはゆっくりと部屋を歩きながら、ひとつひとつを丹念に調べていった。

「この中には何が?」
 ホームズが金庫を指で叩いた。

「継父の仕事関係の書類です」

「中を見たことが?」

「ええ、数年前に一度だけ。書類がぎっしり入っていたのを覚えています」

「猫が入っていたりはしませんか?」

「……猫? そんな馬鹿な……」

「では、これをご覧ください」
 ホームズは金庫の上に置かれていた、小さなミルク皿を持ち上げた。

金庫の上のミルク


「猫は飼っておりません。ただ、チーターとヒヒがおります」

「なるほど、そうでしたね。まあ、チーターも大きな猫のようなものですが……ミルクの皿一枚じゃ、満足させるには足りませんでしょうね。さて、確認しておきたい点がございます」

 ホームズは木製の椅子の前にしゃがみ込み、座面をじっくりと調べ始めた。

「ありがとうございます。これで一つはっきりしました」
 彼は立ち上がり、虫眼鏡をポケットにしまった。「おや、これは興味深いですね」

 彼の目を引いたのは、ベッドの隅に掛けられていた小さな犬用のムチだった。ただし、それはくるくると巻かれ、紐で輪のように結ばれていた。

「ワトソン君、これはどう思う?」

「よくあるムチだと思うけど……なんで結ばれてるのかはわからないな」

「そこが“よくある”とは言えないね。……まったく、世の中には恐ろしいことがあるものだ。頭の切れる人間が悪事に手を染めると、最悪の事態になる。さて、ストーナーさん、これで十分かと存じます。お許しいただけるなら、外の芝生へ出ましょう」

 僕は、ホームズの顔がこれほど険しく、眉がこれほど深く曇ったのを見たことがなかった。僕たちは芝生の上を何度か行ったり来たりしたが、ヘレン嬢も僕も、彼の思索を邪魔することができず、ただ黙って歩いていた。

「ストーナーさん」
 ホームズがようやく口を開いた。「私の助言には、すべて従っていただくことが極めて重要です」

「はい、必ずそういたします」

「この件は、少しの迷いも許されないほど深刻です。命に関わる可能性もございます」

「……私は、すべてをお任せいたします」

「まず第一に、私とワトソン君は、今夜あなたのお部屋で一晩過ごさねばなりません」

 ヘレン嬢も僕も、思わずホームズを見つめた。

「ええ、そうせねばなりません。ご説明いたします。あちらに見えるのが村の宿屋でしょうか?」

「はい、“クラウン荘”です」

「よろしい。窓は、そこから見える位置にございますね?」

「ええ、見えます」

「では、父上様が戻られたら、頭痛を理由に部屋にこもってください。そして、彼が寝室へ引き上げたのを確認したら、窓のシャッターを開け、留め具を外し、ランプを窓辺に置いて合図を送ってください。その後、必要な物を持って、以前使っていた部屋へ静かに移っていただきたい。修繕中とはいえ、一晩くらいなら問題ないはずです」

「あたしなら、平気です」

「残りは、私たちにお任せください」

「でも……お二人は何をなさるんですか?」

「あなたのお部屋で一晩過ごし、あの不気味な音の原因を突き止めます」

「ホームズ様……もう、答えは見えていらっしゃるのでは?」
 ヘレン嬢はそっとホームズの袖に手を添えた。

「……そうかもしれません」

「なら、お願いです。姉が亡くなった原因を教えてください」

「もう少し、確かな証拠が揃ってからお話ししたいのです」

「せめて、あたしの考えが合っているかだけでも……姉は、何かに驚いて亡くなったんでしょうか?」

「いいえ、そうは思いません。もっと具体的な原因があったはずです。さて、ストーナーさん、そろそろ失礼いたします。ロイロット博士が戻られて、私たちの姿を見られてしまえば、すべてが水の泡です。どうかご無事で。私の指示通りにしていただければ、あなたを脅かす危険は、すぐに取り除かれることでしょう」

不安なヘレン




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