シャーロック・ホームズ:新訳リブート

Sherlock Holmes: Rebooted Classics

— 現代の日本語でよみがえるホームズの物語 —

オレンジの種五つ

THE FIVE ORANGE PIPS

「届いたのは“死の種”──復讐の連鎖を止めろ!」

第4章 沈黙の川辺で

 シャーロック・ホームズはしばらく黙ったまま、頭を前に垂れ、暖炉の赤い炎をじっと見つめていた。やがて彼はパイプに火をつけ、背もたれに身を預けながら、青い煙の輪が天井へと追いかけ合うのを眺めていた。

「ワトソン」彼はようやく口を開いた。「今まで扱った事件の中でも、これほど奇妙なものはなかったと思うよ」

「『四つの署名』を除けば、ね」僕は言った。

「まあ、そうだな。あれを除けば、だ。だが、ジョン・オープンショウが直面している危険は、ショルトー兄弟のそれよりも、さらに深刻なものに思える」

「で、君はその“危険”が何なのか、はっきりした見解を持っているのかい?」

「その性質については、疑いようがない」

「じゃあ、それは何なんだ? “K.K.K.”とは何者で、なぜあの一家を執拗に追い詰める?」

 ホームズは目を閉じ、肘を椅子の肘掛けに置いて、指先を合わせた。

「理想的な推理者というのはね、ある一つの事実をすべての側面から見せられたとき、それに至るまでの経緯だけでなく、そこから導かれる結果までも正確に導き出せるものなんだ。キュヴィエ(フランスの博物学者)が一片の骨から動物全体を描写できたように、ある事件の一つの断片を完全に理解した者は、前後のすべての出来事を正確に語れるはずだ。

 我々はまだ、純粋な論理が到達できる領域を十分に理解していない。感覚に頼って解決できなかった問題も、書斎の中で理性だけで解けることがある。だが、その技術を極限まで高めるには、推理者が自分の知識をすべて活用できなければならない。そしてそれは、君も分かる通り、あらゆる知識を持っていることが前提になる。百科事典や教育が普及したこの時代でも、それはなかなか難しいことだ。

 とはいえ、自分の仕事に必要な知識をすべて持つことは不可能ではない。僕はそれを目指してきた。確か、君は昔、僕の知識の限界をかなり正確に分析してくれたことがあったね?」

「覚えてるよ」僕は笑いながら答えた。「あれは奇妙なリストだった。哲学、天文学、政治はゼロ。植物学は気分次第、地質学はロンドン近郊の泥汚れに関しては深い。化学は偏ってて、解剖学は無秩序。犯罪記録とセンセーショナル文学は唯一無二。バイオリン奏者、ボクサー、剣士、法律家、そしてコカインとタバコによる自己中毒者。そんな感じだったと思う」

 ホームズは最後の項目にニヤリと笑った。

「まあね。今でも思うんだが、人間の脳という屋根裏部屋には、使う家具だけを置いておくべきだ。使わないものは図書室の物置にでもしまっておけばいい。必要になれば、取り出せばいいんだから。

 さて、今夜持ち込まれたこの事件には、我々の持てる知識を総動員する必要がある。ワトソン、君の隣の棚にあるアメリカ百科事典の“K”の巻を取ってくれ。ありがとう。では、状況を整理して、何が導き出せるか考えてみよう。

 まず、オープンショウ大佐がアメリカを離れた理由には、何か非常に強い動機があったと考えるべきだ。彼のような年齢の男が、フロリダの快適な気候を捨てて、イギリスの田舎町で孤独な生活を選ぶなんて、普通じゃない。彼がイギリスで極端に孤独を好んだことから、誰か、あるいは何かを恐れていたと推測できる。つまり、彼がアメリカを離れたのは“恐怖”が原因だったという仮説が立てられる。

 では、彼が何を恐れていたのか。それは、彼自身とその後継者が受け取った、あの不気味な手紙を考慮することでしか導き出せない。君は、あの手紙の消印に気づいたか?」

「最初はポンディシェリ、次がダンディー、最後がロンドンだった」

「正確にはロンドン東部だ。そこから何が分かる?」

「どれも港町だ。つまり、差出人は船に乗っていた可能性が高い」

「素晴らしい。すでに手がかりを得た。差出人が船に乗っていたというのは、強い可能性だ。さて、もうひとつ考えるべき点がある。ポンディシェリの場合、脅迫から実行まで七週間かかった。ダンディーでは三、四日だった。これが何を意味するか分かるか?」

「移動距離が長かった?」

「だが、手紙も遠くから届いた」

「じゃあ、よく分からないな」

「少なくとも、彼らが乗っていたのは帆船だった可能性が高い。彼らは任務に出る前に、あの奇妙な警告――つまり“種”を送っているようだ。ダンディーからの手紙では、警告の直後に実行された。もしポンディシェリから蒸気船で来ていたなら、手紙とほぼ同時に到着していたはずだ。だが実際は七週間かかった。つまり、その七週間は、郵便船と帆船の到着時間の差だったと考えられる」

「なるほど……それは、あり得る」

「いや、あり得るどころか、かなり確率が高い。そして、これが今回の事件の緊急性を示している。だからこそ、僕はオープンショウ青年に警戒を促した。今までの事件では、手紙が届いてから、差出人が現地に到着するまでの時間差があった。だが、今回はロンドンからだ。つまり、猶予はない」

「なんてことだ……」僕は思わず叫んだ。「この執拗な迫害は、一体何を意味してるんだ?」

「オープンショウが持っていた書類は、帆船に乗っている人物――いや、複数の人物にとって、極めて重要なものだったんだ。二人の死を、陪審を欺く形で実行できるなんて、一人では無理だ。複数の人間が関わっていて、しかも手段と覚悟を持った連中だ。彼らは、誰が持っていようと、その書類を手に入れるつもりなんだ。

 つまり、“K.K.K.”は個人のイニシャルではなく、組織の紋章なんだ」

「でも、どんな組織なんだ?」

「君は聞いたことがないか?」ホームズは身を乗り出し、声を落とした。「“クー・クラックス・クラン”という名前を」

「いや、聞いたことがない」

 ホームズは膝の上の本をめくりながら言った。

「……あった。ここだ」

新聞を読むワトソン


「クー・クラックス・クラン――銃の操作音に似ているという語感から名付けられた、恐るべき秘密結社だ」

 ホームズは百科事典のページを指で押さえながら、静かに語り始めた。

「この組織は、南北戦争後に南部の元南軍兵士たちによって結成された。瞬く間に各地に支部を広げ、特にテネシー、ルイジアナ、ノースカロライナ、サウスカロライナ、ジョージア、フロリダなどで勢力を持った。政治的目的のためにその力を使い、黒人有権者を脅し、思想に反する者を殺害したり国外へ追放したりした。

 彼らの暴挙は、必ず何らかの“警告”を伴っていた。地域によってはオークの葉、あるいはメロンの種、そしてオレンジの種が使われた。これを受け取った者は、過去の行いを公に否定するか、逃げるしかなかった。もし立ち向かえば、必ず死が訪れた。しかも、奇妙で予測不能な形で。

 組織の構造は完璧で、手口は徹底していた。記録に残る限り、彼らに逆らって無事だった者はほとんどいないし、犯行が彼らに結びついた例もほぼない。数年間、アメリカ政府や南部の良識ある人々の努力にもかかわらず、この組織は繁栄し続けた。だが、1869年に突如として崩壊した。もっとも、その後も散発的な活動は続いているがね」

 ホームズは本を閉じて、僕の方へ顔を向けた。

「気づいたかい、ワトソン。組織が突然崩壊したのは、オープンショウ大佐がアメリカから姿を消し、彼らの書類を持ち出した時期と一致している。因果関係があると見ていいだろう。彼とその家族が、執念深い連中に狙われるのも無理はない。

 あの記録と日記には、南部の有力者たちの名が記されている可能性がある。それを取り戻すまで、彼らは夜も眠れないだろう」

「じゃあ、あのページに書かれていた内容は……」

「予想通りのものだった。確か“種をA、B、Cに送った”とあったね。つまり、警告を送ったということだ。その後、AとBは“片付いた”――つまり逃げたか、殺された。そしてCは“訪問された”。おそらく、Cには最悪の結果が待っていたんだろう。

 さて、ワトソン。我々はこの暗闇に光を差し込むことができるかもしれない。若いオープンショウが助かる唯一の道は、僕が言った通りに行動することだ。今夜はもう、これ以上語ることも、やることもない。僕のバイオリンを取ってくれ。この陰鬱な天気と、人間のもっと陰鬱な性質を、しばらく忘れようじゃないか」


 翌朝には雨も上がり、灰色のベール越しに、柔らかな陽光がロンドンの街を照らしていた。僕が階下に降りると、ホームズはすでに朝食をとっていた。

「待たずに始めてしまってすまない」彼は言った。「今日はオープンショウ青年の件で、かなり忙しくなりそうだからね」

「まず何をするつもりなんだい?」僕は尋ねた。

「最初の調査結果次第だ。場合によっては、ホーシャムまで行くことになるかもしれない」

「最初からホーシャムへ行くわけじゃないんだね?」

「いや、まずはロンドン市内から始める。ベルを鳴らしてくれれば、メイドが君のコーヒーを持ってくるよ」

 僕がベルを鳴らして待っている間、テーブルの上に置かれた新聞を手に取った。まだ開かれていないそれを広げ、目を走らせた瞬間――ある見出しが目に飛び込んできて、僕の心臓は凍りついた。

嵐の審判




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