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■シンプロントンネル イタリアに別れを告げ、ツアー一行で国際寝台列車に乗り、当時世界最長と言われたアルプスをくぐり抜けるシンプロントンネル(19,823m)経由でスイスへ向かった。 未明に目覚めた。車窓はぼんやりと青みがかっているものの曇り空である。が、そろそろシンプロントンネルだ。長いトンネルに入ったので、目覚めている向かいの若い女性に<Is this Synpron-tunnel?>と尋ねた。彼女がうなづいたのだが、すぐにトンネルを抜けてしまった。どうやら前座だったらしい。彼女は気まずい顔をした。いよいよ長いトンネルに入り、これがシンプロントンネルとわかった。が、トンネルの体験なんて味気ないものだ。延々と真っ暗の中を走り、ようやく抜けた。 トンネルを抜けると歓声と拍手が上がった。真っ青な空が広がっていたからだ。遠くの山も見える。すでに白い雪をかぶっている。近くの山は薄紅色に染まっている。見たこともない絶景に、私はうれしくてたまらなくなった。 国境の駅ブリークで乗り換えスピーツ駅へ出たが、この駅前がすごかった。駅を出てすぐに、眼下にトゥーン湖が広がり、しかも湖畔に尖塔のある教会が見える。まるで映画のセットだ。当時つきあっており、この旅の衣装を選んでくれもしたN美が「スイスって、どこを見ても絵葉書なのよ」と言っていたのがうなづけた。 ■ユングフラウヨッホの登山列車
電車がラウターブルンネル駅へ着くと、青いU字峡谷の横腹から一条の滝が水煙をあげている。電車は蛇行して登っていくからそれが右へ左へと移る。町並みが下界へと遠ざかるにつれ、白い雪もまぶしい山が上のほうへ顔を出す。そしてその山が徐々に迫ってくる。巨大な山となって胸が詰まるくらいに近づいたら、電車はトンネルへと入った。頂上手前には氷のトンネル駅があり、電車は見学する時間止まって待っててくれる。完璧な観光電車であり、高い運賃は観光料込みなのだ。 さすが頂上は曇っていたが、雪を踏んで少し行くと大氷河も見え、神の偉大さにただ、ただ脱帽。飲んべの種村氏は、成田から持ち歩いているウイスキーで雪割を作り、大自然に乾杯した。 |
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■ベルンとルツェルン スイスの首都はベルンという都市であることはあまり知られていない。私たちがついたのはもう暗くなってからだった。本来のツアーはどこぞに泊まっているのだがここはまったくの別行動で、身の回りの荷物をサブバッグに入れて移動している。スーツケースは添乗員に預けた。 夜のベルン駅で宿を探す羽目になったが、何やら宿の広告塔が駅構内に立っている。いくつもの宿リストから希望のホテルのボタンを押せば、そのホテルに電話がつながるらしい。空室アリは緑ランプ、満室は赤ランプとは想像がつく。操作を迷っているとどこからか老紳士が現れた。少々くたびれているが三つ揃いのスーツである。どうやら退職後の時間をもてあましている老人のようだった。 彼の手助けで何軒かあたってもらうものの満室で、ほどなく腕章を巻いた観光協会らしい中年女性が出てきて、トラムで数駅行った先の宿が取れた。老人は乗り場まで見送ってくれた。トラムに乗るとき、種村氏は老人にそっとチップを握らせたのであった。 翌朝、電車で行ったルツェルンは雨だった。しかし落葉が始まった秋の古都に雨は似合っていた。トラムで、ヨーロッパで最も充実しているといわれている交通博物館へ行き、異国の鉄道史を垣間見た。 街に戻って有名なカペル橋を渡ってみた。これはルツェルン湖から流れだすロイス川にかかる橋で、屋根があることで有名である。歴史のページから抜け出したような古風な町並みに感心した。 ツアー一行が泊まっているジュネーブのホテルへ合流し、明日は期待のTGV(テージェーヴェー)でパリへと向かう。添乗員に預けておいたスーツケースは無事に部屋に運び込まれていた。まこと、ご苦労なことである。 |
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